親友
広大な氷の海が広がるが、連なるかき氷山が邪魔をして、水平線はここからじゃあまりよく見えない。
どうやってこれだけ異世界を大きくしたんだ?
ウルエさんがまだ若いからか?
……ん?
けして、この前のマサさんが若くないって言ってるわけじゃないよ? うん。
ただ、異世界だってエネルギーは無限じゃない。
循環型だとしても、補給しなければいずれ底をつく。
「ウルエさん……この世界って、いきなりこんなスケールでっかかったんですか?」
素朴な疑問を投げかけた。
彼女の魂のエネルギーが創り上げた異世界。
氷山に手を添えたまま、彼女はこちらを振り返る。
「全然、違うよ? 最初は本当にごくふっつーーなお部屋。友達を招いてお喋りするって感じ?」
……ウルエの部屋⁉︎
ルールル ルルル ルールル……ってか?
そして……友達……。
俺はちらりと、氷山のソラさんを見る。
「でも、この世界のお茶菓子は出せないでしょ?」
「黄泉竈食……か」
マサさんの異世界から戻ってきて、『事故物件』『異世界』ってネットで検索かけていたら、ネットサーフィンの波に乗って偶然、『古事記』の一節を目にした。
……まぁ、予想通り。
異世界の食べ物は、決して食べてはいけない……現実世界に戻って来れなくなるから……。
カチャッ……
ふいに俺の額でゴーグルが揺れた。
あぁ……なんでマスクが出てくるのか、理解した。
お菓子弾や撃破した対象の破片が、間違って口に入ってしまわない為のウルエさんの気遣い……本当に優しい。
「だからいつも、ソラがこっち遊び来る時、お菓子とかジュース持ってきてくれてさ。新商品が出たりすると二人で一緒に食べて、くだらないこと話したりして……」
お菓子……ジュース……。
異世界持ち込みオッケーって、カラオケかよ!?
………………
えーーっと……つまり、現実の美味しい物達が、この異世界拡張のエネルギー源か?
……そのせいで、敵があんなに強くなってんのかよ⁉︎
俺の可哀想な脇腹よ……う〜ん。
なんとも複雑な気持ちだ。
「とりあえず、装備を……ドームテントに移動しよっ」
「は、はいっ!」
後ろ髪引かれる様に氷山を見遣りながら、ウルエさんは俺を促した。
◇◇◇◇
案内されたのは氷海上のドームテント……もちろんアイスクリームで出来ている……たぶん。
……俺には、アイスクリームもアイスミルクもラクトアイスも氷菓も……違いの説明は出来かねる!
ちょっと、誰か解説して!
ぐぐっ……カキンッ!
凍った棺のような箱……シャーベット製かな?
凍りついたカチコチの蓋を力技で開けるウルエさん。
「ソラを助け出して……向こうに帰すんだ……もう、私に関わらないように……あの子は昔から無茶するから……」
「……元々知り合いだったんですね?」
ピタッ!
武器箱の中の一点を見つめるように、彼女が動きを止めた。
「うん……そうだよ。私達は……中学からの……親友だよ」
6年前、俺と同じ19歳で亡くなった……生きていれば、25歳だったウルエさん……ソラさんも同い年。
「ソラは……あの部屋に……私を探しに、引っ越して来たんだよ」




