砂浜
「ウルエさん、騙しててごめんなさいっ!」
ばっ!
俺は脇腹を押さえながら、頭を下げた。
反対の手にはもっさり黒い塊……落としたアフロなカツラは回収したが……何て言って社長に弁償免除してもらおうか? う〜ん。
でも下手に今回をサービスしてもらうと、また無理矢理、他の面倒ごとを押し付けられそうだし……それは是非とも遠慮しときたい!
大人しく金払った方が身のためかも……。
頭の中でぐるぐる考えていると、ウルエさんがひょいっとカツラを俺から奪い、パサッと自分の頭に乗せた。
「ねぇ、なんでハルちゃんはカツラ被っていたの?」
アフロなウルエさんも、お茶目で可愛い。
「『女子限定の賃貸物件に出入りするんだから……』って、社長に被せられたんです。もし、ウルエさんが男嫌いだったら悪いかな? と思って、そのままにしちゃいました」
「なるほどね。そこの社長さんってどんな人? ……なんだか随分ハルちゃんに厳しいんだね。ムチャ振り? ご苦労様だぁ」
「えっ? ……あ、あぁ……そうなんですよ、マジ鬼畜〜〜」
ウルエさんのこの口振り……もしかして社長と面識ない?
えっと……だとしたら、この異世界を創るようにアドバイスしたのは……一体、誰?
「そうそう、あれが連絡鏡だよ」
彼女がドラムセットの後ろをすっと指差す。
こんな近くに⁉︎
雷が鳴りまくっていたから、全然気づけなかった。
不動産会社『ワープルーム』との唯一の通信手段な連絡鏡。
マサさんの異世界の魔王城にあったのと同じサイズか……改めて見ると、デカッ!
大きな違いは……ど真ん中に撃ち込まれた銃痕、そこから走る亀裂と、うんともすんとも反応の無い人感センサー……完全に役割を果たせなくなっているな。
……意味ないじゃん!
沈黙した鏡にそっと触れて上を見上げてから、ウルエさんに尋ねる。
「……ソラさんですね?」
「……」
言葉は出さずに、ウルエさんは哀しそうに微笑んだ。
……それが彼女からの、質問の答えだ。
◇◇◇◇
「……えっと……この雲のステージから降りるにはどうすればいいんですか?」
ふと、急に不安になったので、恐る恐る聞いてみる。
上る時使った縄梯子はボロボロな別物に変えてしまったからな……。
……マジであの雷撃はヤバかった!
「それならこっちだよ!」
ちょいちょいと手招きされて、一緒に雲の端から下を覗き込む。
「‼︎」
そこには長い長い虹の滑り台が、雲から下界へとくねくね続いていた。
これは……アイシングクッキー⁉︎
表面が可愛く虹色にデコレーションされている。
……滑ったら、全部削れちゃいません?
ウルエさんって、体育会系だし、サバゲーしてるから、てっきり男っぽい性格かと思ったけど、結構メルヘン趣向なんだよなぁ。
ふと、初級、中級、上級で戦った敵の顔が思い浮かぶ。
………………
可愛い顔の敵が無表情で攻撃してくるのは落差があり過ぎて、逆に怖いよ。ホラー!
「ほら! ハルちゃん、降りるよっ‼︎」
「わ、わっ!」
ウルエさんに促され、滑り台をすべ……。
ひゅんっ‼︎
「うわぁぁぁっ! 痛ててててててっ‼︎」
ゴンッ! ガンッ! ゴッ! ガッ!
くねくねスライダーのせいで、縁に右へ左へと振られる振られる‼︎
思ったよりもスピード出てるぅぅぅっ‼︎
うぉっーー‼︎ ビビるじゃんかよ‼︎ 痛ててっ!
ひゅーーん! ザザザーーッ、ザンッ‼︎
最終地点はきび砂糖の砂浜に尻からどさっと間抜けに落ちた……。
………………
ぐぉぉぉぉぉっ‼︎
振動で脇腹も尻も超痛ぇぇっ‼︎
悶える俺の半泣きの瞳には、ウルエさんが体操選手のように、見事な着地を決めたポージング姿が映ったのだった……10.00‼︎
最終ステージ『冬の海』……また、ここに戻ってきた。
「お待たせ……ソラ」
ウルエさんはそう呟き、氷山にそっと顔を寄せた。




