リズム
「あ……ウルエさん……こ、これは……」
あ〜あ、男なのバレちまったか。
さて、どこから説明するか……う〜ん。
俺が言葉を模索した瞬間……。
デーーン! デーーン! デーーン! デーーン!
2体の大太鼓カミナリ様が腕を振り、マレットを面に強く叩きつける!
それに呼応して出現したのは巨大な雷の……なんだ? 壁か⁉︎
幅広な雷撃の柱が広がり、それが立ち消えるまでカミナリ様の姿はこちらの視界から遮られる。
……防御壁か⁉︎
真正面を向いたまま、ウルエさんが口を開く。
「大太鼓はあんな感じで……防御特化型。ドラムマンは超攻撃型だよ。小太鼓や中太鼓と違って、早くは動き回れないから、あの雷撃を抜ければ倒せるよ! ……今は、まずこのステージをクリアしよう! ねっ、ハルちゃん!」
俺が性別騙してたのに……変わらずに接してくれる、優しすぎる創造主だな。
……創られた奴等は、全然優しくないけど。
俺もウルエさんから視線を動かし、前方を見る……しかしどうすっかな……あの雷壁じゃ、こっちの弾丸は対象に届かない。
接近しようものなら、ドラムマンの華麗なるスティック捌きの餌食で、即ゲームオーバーだ。
狙うは……壁が消えた瞬間の長距離射撃か?
薄らいだ壁の向こう側に、カミナリ様達のシルエットが見えた。
……やるしかねぇ!
気合い入れて……駆逐してやるぜ‼︎
「俺が囮になります! その隙に、ウルエさんがライフルで撃ち抜いて下さい!」
地声に戻して、彼女に射撃を依頼する。
「えっ⁉︎ 駄目だよ、走るなら私が行くよ! これでも足早いんだから!」
確かに……駆ける姿、ウルエさんは走り込んだ人のフォームだった……陸上部だったのかな?
俺も運動神経良い方だが、この不慣れな雲上の走りでは尚更、彼女には勝てないだろう。
「ウルエさんは足の速さも、狙撃の腕も俺より上です。だから……ぶち抜いてください!」
「そっか……なるほどね。オッケー! 絶対勝つよ!」
デーーン! デーーン! デーーン! デーーン!
大太鼓がリズム良く腕を振り叩き、次々と雷壁を出現させる!
俺とウルエさんは、ばっと距離を取った!
あれ自体も、当たれば一溜まりもない。
防御は攻撃にも転ずる。
ダララララララララララララ……ダンッ‼︎
ドーーンッ‼︎
今度は、滑らかなドラムロールの最後の一音で激しい一撃が落ちる‼︎
小太鼓の威力なんて、まだ可愛いもんだよ……こいつはやべぇ‼︎
ドラムマンがノリノリに叩き始める。
ハイハットシンバルのエイトビートから、スネア、バスと華麗に組み込みリズムを刻む!
チチチチチチチチ、ダントッ‼︎ ダントッ‼︎
デーーン! デーーン! デーーン! デーーン!
合わせるように、大太鼓もリズムに乗る!
「ちっ!」
必死に避けつつも、視線をフルで全方位に向ける!
……音と落ちてくる雷にも何パターンかあるな……縦に斜め、範囲の広狭……楽器で攻撃パターンが変わるのか⁉︎
………………
行くぞ……覚悟はいいか、俺!
ガシャン! ガシャガシャ! ガチャ!
持っていた武器の大半を雲に置いた。
身軽になった俺の足よ……頼む!
ただただ、この雲上を走り切るぞ‼︎
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎」
耳に全神経を集中し、リズム音を感じながら……。
ダンッダダダダダンッタタタタッダッダッ!
「うぉっ! はっ! なにくそっ‼︎」
避ける、避ける、避ける‼︎
サバゲーじゃなくて、これ音ゲーじゃん⁉︎
とか、冷静な頭がツッコミを入れつつ、俺はひたすらにくねくね避けては、また走り込む‼︎
中々、当たらないことに少しイライラし始めるカミナリ様達。
ちょっとキレぎみ? ムキになってません?
……短気は損気でっせ?
標的は完全に俺、ロックオン‼︎
ちょこまかと蛇行しながらも、徐々に距離を詰め、離れ、詰めを繰り返す‼︎
「はぁ……はぁっ……」
が、流石にちょっと足が絡れてきた……。
ぐらっと体勢が崩れ、左手が雲に付き、足が止まる。
カミナリ様達の目がキランと光った気がした。
……『今だ!』って……。
ダンッダダンッダダダンダダン‼︎
デーーン! デーーン! デーーン! デーーン!
動きの止まった俺の頭上から、一斉に雷撃が降り注いできた‼︎




