他人の日記は読むもんじゃない!
ぱんぱんっ!
キャンパスノートの前に正座し、両手を叩き、拝む。
傍らでメーさんがぷるぷる居眠りしてる。
あぁ可愛い。
「なーーんか、社長の手の上で踊らされてる気がするんだよなーー」
合掌ポーズでぼやく。
よく考えたら、恐ろしい程に手際が良すぎる。
罠か?
……あれは信じてはいけない種類の人種だな、うん。
魔物より恐ろしいのは、実は人間だったりして……。
では……。
「失礼します!」
意を決して、ノートを開く。
前の居住者は、今から一年前に契約していた、当時24歳の会社員、男性。
比較的、几帳面な性格だったのかな?
読みやすい字。性格が出てる。
『5/5(日)
ゴールデンウィークに引っ越し完了。気づいた時にはもう、あっという間に住むことになってしまった。』
おっ、社長による被害者仲間。同志!
『今日から綾瀬(仮)さんの異世界を探索することにした。』
なんと、ここでもバチ当たりな呼び名が‼︎
始まりは5月5日から、一日一日、どこまで攻略したかが丁寧に書いてある。
お、まだ途中ながら、地図も書いてくれてる。
助かるーー‼︎
ん? ……でも、5月16日辺りから……何やら日記の様子がおかしい。
『5/16(木)
森の中で一人の美しいエルフと出会った。
一目惚れだ。帰ってきても頭から離れない。
どうしよう、好きすぎる。
やばい、やばい、やばい、どうしよう。
なんかおかしなことしでかしてないかな?
変な奴って思われたかな?』
……んん?
『5/17(金)
好きだーーめーーっちゃ好きだーー‼︎‼︎
大好きだーーーー‼︎‼︎
ミーフィはどんな男がタイプなんだろ……?
あー聞きたいけど聞けないぃぃぃ。
なんて俺は情け無い男なんだーー‼︎』
………………
それ以降、冒険の話はこれーーっぽっちも書かれていなかった。
異世界攻略日記は、美しいエルフのミーフィへの恋煩いを拗らせた、会社員の痛いポエム調日記へと変貌を遂げていた……。
ぱたん。
ノートを閉じて、ふーーっと息を吐く。
「やっぱ、他人の日記なんて読むもんじゃねぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」