敵衆
「……をすることが、中級クリアのコツ……かな?」
「分かりました! ありがとうございます!」
これから戦う敵とステージ情報をウルエさんから貰い、ぺこりと頭を下げた。
「よしっ! じゃあ、ハルちゃん行くよ!」
「はいっ!」
バンッ!
勢いよく瓦煎餅の戸を開け、小屋を出て……ふと振り返る。
「……あ、これ良いなぁ」
「ハルちゃん、どうしたの?」
「ちょっと忘れ物」
そう言って、小屋からもう一つ持ち出してから、俺達は歩き出した。
さっきは明るく見えた森が、今はなんだか鬱蒼として見え……薄気味悪いな。
気の持ちようで、見える世界はくるりと変わるのだ。
ぐっと拳を握って気合を入れてから、額のゴーグルをカチャリと下げる。
装着した途端、カシャンとマスクが現れ、流れ出す映像と音声。
『汝、敵ヲ殲滅セヨ。』
はいはい。
ん? 表示された数字は50……か。
数はさっきの初級ステージの半分だけど、難易度は上がる……ってことだよな。
ライフポイントは……三つに戻っている⁉︎
ステージ毎にリセットされるのか?
とりあえず……ほっと溜息が出た。
「じゃあ、作戦通りに行くよ! 確実に仕留めていこうね!」
「よろしくお願いします!」
ピピッ!
右レーダーにオレンジ色の点が無数に出現する!
もう既に、周囲をぐるりと囲まれているのか⁉︎
……まるで気配が分からない! 不気味すぎる‼︎
ピーッ!
前触れなく、赤い明滅と表示と警告音!
『DANGER』
前回と速さが段違いだ……やべぇ!!
ひゅん!
サクッサクッサクッ!
咄嗟に、赤丸の方角から木を盾にして隠れる!
その木の幹に、綺麗にめり込んできたのは三つの手裏剣‼︎
麩菓子の木肌は儚くポロポロと崩れていく……サクサク系はやっぱり脆いなぁ。
チラリと手裏剣を見ると……刃がキラッと光る鋭利な飴細工だ。
………………
おいおいおい……こんなの刺さったら重症でしょうが!
死んじまうよぉぉぉっ‼︎
さぁーーっ……
音を立てて俺の全身の血の気が引いていった……この引いた血はどこへ行くんだろ?
心臓ですかい?
前回は……
初級ステージ :『秋の街』
撃破対象 : 『砂糖菓子アニマル』100体
だった。
それに対し、今回……
中級ステージ :『夏の森』
撃破対象 : 『練り切り忍者』50体!
未だ、敵の姿は隠れていて、まるで見えない……流石は忍者!
この森の松は幹が麩菓子、葉っぱは練り切り……そして敵は、葉っぱと同じ材料……姿を隠す為に木の葉と同化しちまうらしい。
………………
うわーー! めちゃめちゃ厄介だ‼︎
落ち着け……落ち着け……。
ウルエさんから教えて貰った通りにとりあえずやってみるんだ、俺。
深呼吸しろ、すーーはーーすーーはーー。
……よしっ!
対象が見つからないから照準が絞れない。
だが、手裏剣が飛んできた方角、レーダーのオレンジ色を頼りに……銃を構え、まずは一発……。
バンッ!
金平糖弾が松の葉を激しく揺する!
さわさわと揺れる枝木……その中で動きの遅れる葉の辺りを目掛けて……。
バンッ!
手応えを感じた。
何と言えばいいか……葉ではないモノに弾が当たった感覚。
そして当たった対象が、ようやくその姿を表した……それは二頭身の可愛い忍者!
一瞬だけその小さな半身が葉陰から見えたが、すぐに粉砂糖になって、風に消えた。
針葉樹である松の葉はそこまで生い茂るという表現が当てはまらない樹木だ。
それなのに奴らは姿を隠している。
えっとぉ……あのちんまりとした身体でさっきの手裏剣飛ばしてくるの⁉︎
マジで勘弁してくれ‼︎ もう泣きそうだよ‼︎
っつうかちょっと泣いてるわ‼︎
レーダーからオレンジの点が一つ消え、数は49!
二段構えで対処するのが、このステージの最低条件。
俺は持っていたハンドガンをホルダーに収めてから、背中のマシンガンに持ち替え、そっと息を潜める。
木を揺さぶるならこちらの方が都合が良い。
心を鎮める時間がもう少し欲しい……。
だが、相手はお菓子と言えども忍者。
俺のかくれんぼが通じるはずもなく……。
ピーッ! ピーッ! ピーッ!
連続した警告音の嵐!
あぁ、もうやるしかないっ‼︎
「うおぉぉぉぉっ‼︎」
ダダダダダダダダダダダダッ‼︎
無駄撃ちにならないよう、対象を注視しながらブレないように撃ちまくる‼︎
ちっ!
振動で腕が持っていかれそうになるのを、踏み止まる‼︎
食いしばった歯のせいで、口の中が血の味がするぜ……現実帰ったら歯医者行こう。
みるみる減っていく数字!
32、31、30、29! よっしゃーー‼︎
ピッ! ザザッ!
その時、ゴーグルに通信が入る!
ん、今度は何だ⁉︎
「おっ! ハルちゃん、やるねぇ! 気をつけて!」
「ウルエさん⁉︎」
このゴーグル、通信も出来るのか?
色々便利で凄いな、これ。
本当、どういう作りになってんだろ?
すっと俺の視線が画面の数字に止まる。
10⁉︎ えっ? いつの間に⁉︎
今、俺と話す直前で一気に19倒したの⁉︎
強ぇぇっ!
「ウルエさんも気をつけて!」
「はいは〜い!」
軽い返事で通信は切れた。
と、同時に……。
ピーッ! ピーッ! ピーッ!
またしても警告音‼︎ くそっ!
どんどんどんっ!
………………
「え?」
三度の衝撃が身体を揺すった!
「マジかよ……俺のライフポイント……」
どさっ……
俺の身体は、地面にうつ伏せで倒れ込む。
背中は自分じゃ見えない……けど、手裏剣が三つ刺さってんだろうな……くそっ! ムカつく!
ざざっ!
すぐ近くに足音が聞こえた。
俺の側に立っている気配……。
「ハルちゃん……背中に三つ刺さってるよ……やられたの?」
冷静な声が頭上から降ってくる。
その声に、まるで動揺がみられない……知っていたかのような落ち着きぶり。
「そっかぁ……」
ガガガガガガガガガガガガガガガッ!
彼女のサブマシンガンが激しい連射‼︎
それに伴って、ゴーグルの残り10が一瞬にして0になった。
「ハルちゃん、残念だったね。お休みなさい」
背中の手裏剣を一つずつ抜きながら、俺の背中に彼女は呟く。
『殲滅完了、中級ステージクリア!』
機械音声が終わりを告げる。
彼女はふぅっと息を吐いて、ゴーグルを上げた。
ごろん!
身体を反転させながらホルダーから銃を抜き、仰向けになった俺は、彼女にかちゃりと銃口を向けた。
「な、なんで動けるの⁉︎ ライフポイント三つ消滅したでしょ⁇」
「……背中に瓦煎餅を入れていて助かったんだよ」
小屋を出る時、頑丈な戸を拝借して、ちょっと割り、背中に仕込んでおいたのだ。
防御は大事! 不注意一瞬、怪我一生だ!
他のプレイヤーのライフポイントはゴーグルに表示されない。
彼女は俺がゲームオーバーだと思ったのだ。
「俺が死ぬのを待ってたの?」
「……」
「ウルエさんって……本当は会社員のお姉さんじゃないだろ。……あんた……一体誰だ?」
俺の質問に驚いたのか、少しだけ目を開いた後に彼女は答えた。
「……へぇ……そうだよ。いつ気づいたの?」
誤魔化すことなく、あっさりと認めた。
「気づいたというか……変だなって思ったのは……見せてくれたコンパクトの表面が綺麗だったから……ですかね?」
取り出して見せてくれたコンパクトミラーは、鏡面だけが割れていた。
「流れ弾……って言ったけど違う。攻撃を受けて割れたら外も割れる。合わせ鏡をしようとした時に割れたのかな、と。だから疑いの目を向けたんです」
他にも怪しい点はちらほらあった。
『行ったことない』と言いつつ、最終ステージのエリアを知っていたり、俺が狙われるようなタイミングで通信を入れてきたり……。
「ウルエさんと会社員さんは別人なんじゃないか、と……あと……それです」
ウルエさんの右手を指差す。
「……手?」
「人差し指の関節にタコがあったのを見て……思い出したんです」
「あぁ……これ?」
彼女はそっとフィンガーレスグローブを引っ張り、脱ぐ。
「『吐きだこ』って言われる指のたこ……握り拳を作った時に盛り上がる所に出来やすいって聞いたことがあったんですが……ウルエさんの手には三箇所ですか」
拒食症。
嘔吐するため喉に拳を突っ込む時、歯が繰り返し当たる部分は皮膚が肥厚し胼胝や傷になる、と聞いたことがある。
「身体は戻ってるのに、こういうところはあの時のままなんだ」
忌々しそうに呟く。
「ウルエさんが……この異世界の創造主さんですね?」
俺の言葉に彼女はにこりと笑った。




