和の森
後ろは振り返らずに前進あるのみ……不安だが、それしかない。やるしかない。
ウルエさんと二人並んで、瓦礫の中、壊れたサクサク石畳を歩み進む。
歩く度にサクボロッとさらに粉々に割れていく……が、クッキーの下にはチョコレートの地面。
……罠の落とし穴ではないのか。
重心を下げ、銃を手に構えながらキョロキョロと周囲を窺う俺を、かたや武器を背負い手ぶらになった彼女がははっと笑う。
「ハルちゃん、警戒しなくても、大丈夫。もっと気楽に行こうよ〜〜。ここはまだ次のステージが始まってないから、敵は出てこないよ」
……さっきも聞いたな『ステージ』。
あれが初級ステージ……ってことは、順当に行くなら次は中級……上級も出て来ますよね?
………………
嫌だーー‼︎
安全な異世界は無いんかーーい‼︎
本当、もう帰りたいぃぃぃぃっ‼︎
俺の心の中は大絶叫‼︎
だが、隣の元気系お姉さんに悟られては恥っ!
……男たる者、女の人の前ではちょっとはカッコつけていたいのよ〜。
雑な女装中だけど……。
クール風を装った無表情で前を向き、銃をガンホルダーにすっと収めた。
「アリガトウ、ウルエサン」
………………
あぁ、少しはカッコイイ風に言葉を返そうと思ったのに〜〜‼︎
能面顔で滝のような大量の汗を流しながら、カタカタッとゴーグルの案内音声のようにしか喋れなかったよ……俺。
周囲とほとんど交流せずにここまで生きてきた俺が、急に外面を取り繕うなんて……そりゃ無理か。
ただの残念な生き物がここに誕生しただけだった。
◇◇◇◇
先程を『街』と呼ぶなら、今は『森』の中だ。
道なりに歩いてきて……森に入ってからここまで建物が一軒も建ってなかったのに、随分進んだら突然ポツンと一軒屋な……茅葺き屋根な和建築?
もちろん言うまでもなく、建材はお菓子。
さっきこの世界に渡ってきた時の小屋とはまた違うなぁ。
歯応え良さ気なかりんとうが屋根を担い、外壁は雷おこしで、引き戸は瓦煎餅だ。
そういえば、さっきまでの木々……幹がプレッツェルで、葉っぱがアーモンドチュイールな秋色の森。
なのに、急にここから和テイスト。
濃緑な松の木が生い茂るが、幹は麩菓子で、葉っぱは練り切りな夏色の森だ。
……たぶんだけど……次にこの小屋の戸を潜り出たら……どうせ中級ステージ開始なんだろ?
………………
あーーやだやだ、もうっ‼︎
ガラッ!
慣れた様子で戸を開け、屋内へと進むウルエさん。
俺も彼女の後に続く。
そのまま奥の葛籠の前まで進み、勝手に中を開け、物色を始めた。
葛籠は……最中の皮?
中身の餡は、ぎっしり詰まった武器ですね。
「えーーと、あ、これこれ!」
彼女は葛籠の中から、何かをごそっと掴み出し、俺の背中の武器をぐいっと勢いよく引っ張る!
あ、待って、待って! 首絞まる‼︎
俺のライフ一気に消えちゃう‼︎
「く、苦しっ……」
「あ、ごめんごめーーん」
エアインチョコよりも軽い謝罪を口にしてから、膝の上で作業を始めた。
ジャラッ!
「いい? マシンガンの弾薬ベルトリンクはここにはめるのよ。んで……」
ガシャコンッ!
「デザートイーグルのマガジンは素早く落として、次をこうやって装填するの」
手慣れた様子でウルエさんが武器の装填方法を次々と伝授してくれる。
わかりやすい! 親切! かっこいい姐さん!
「武器は各ステージ前にある小屋で補充や交換出来るから、もっと機動性のいい武器にするといいかも」
「なるほど」
アドバイスを聞いて、ふと質問を返す。
「ウルエさんはどのステージまで行けてるんですか?」
「一人だといつも上級でゲームオーバー。ライフポイントゼロにしちゃうの」
ケラケラと笑う。
ん?
ライフポイントゼロになっても……死んでない?
どういうことだ?
「この世界の地図は無いんですか?」
「そういえば無いなぁ。簡単なステージ分けだから作んなかったんじゃない? さっきのが初級ステージ『秋の街』、この先が中級『夏の森』、上級『春の空』って進んで行って、最終ステージ『冬の海』に鏡があるはずなんだよね。……連絡鏡はどこにあるかはわかんない」
葛籠の中身を全部取り出し、並べながら考えつつ、言葉を返してくれる。
「最終ステージって?」
「私も行ったことないからよくわかんないんだけど、氷に覆われた海のエリアだね」
「……とりあえず、まずは『夏の森』を抜けないといけないんですね」
「まっ、そういうこと。じゃあ一緒に頑張ろう!」
にこっと笑顔を浮かべながら、彼女セレクトの物騒な武器達をどさどさっと俺に渡してきた。
お菓子製なのに、こんだけ集まるとめっちゃ重っ‼︎
「ちなみに中級は金平糖弾で撃破していくよ!」
……当たったら痛そうだな。
防護服はありませんでしょうか?




