甘ったるい街中
正直、意外だった。
アラームを止め、スマホの画面を改めて見る。
時間の流れが、現実とほぼ同じだったのだ。
アラームは試しに5分後に設定していたのだが、体感的にはドンピシャ。
つまり、行方不明になって現実世界で二週間……会社員のお姉さんもこっちの世界、二週間分の時間の流れを経過している、はず……生きていれば……。
はっと、嫌な想像が2パターン頭に浮かびあがる。
① 彼女が亡くなっていた場合。
魂はすでにこの世界に取り込まれ……転生者となったまだ見ぬ彼女に、今から俺は出会ってしまうかもしれない。
……お姉さんがゾンビにでもなってたらどうしよう⁉︎
② 彼女が生きていた場合。
こちらはこちらで問題がある……二週間を生き抜く為の栄養源……一体何を食べたのか、と。
サバイバル上、食べ物は取らずとも二週間は生き延びれると聞いたことがある……水があれば……。
だが、食べ物がところ狭しと並ぶこの異世界で、お菓子を口に入れずに果たして済むのだろうか?
死んだ女子大生の魂で出来た罠を……。
……両方の想像がどちらも外れてくれることを心底願うのみだ。
とりあえずは丸太小屋の外へ出ないことには、中からじゃ何も分からないな。
「はぁぁぁぁぁっ……」
腹の中の空気を全部溜息として吐き出してから、気合いを吸い込み、チョコレート箱の中身をフル装備した。
……だが、装着がイマイチ分かんない物もある……これは……腕につけるのか、足につけるのか、それとも……⁇
片膝を床につけ、軍靴の紐をきゅっと硬く縛り、立ち上がる。
ゆっくりとビスケットのドアを開けると、途端に立ち込める甘ったるい匂い……見上げる空は淡い桃色だ。
うっぷ……ちょっと胸焼けしそうだわ……嗅覚がそのうち麻痺してくるのを祈ろう。
別に甘い物は嫌いじゃないが、態々自分で買って食べることはない。
同じ金額を払うんだったら腹持ちのいい米を買うな、俺は。
◇◇◇◇
この丸太小屋は思ったより街中にあった。
周りは童話の絵本に出てくる街並みのよう……可愛いらしいお菓子の家が立ち並ぶ。
苔の生えた岩は抹茶チョコレートで、石畳はホワイトチョコラングドシャか……歩いたらすぐにサクッと割れそう!
こんなメルヘン空間に出てくるのはどんな化け物なんだ?
ゾンビ系? エイリアン系? 機械兵器系?
あぁ、どれも絶賛お断り致したい‼︎
……自分で言うのもアレだが、運動神経はそこそこ良い方だと思う。
だが……射撃なんて、生まれて初めてだ。
お祭りの屋台で射的を見た事はあるが、やったことはない。
一回500円って‼︎
……裕福ではない俺にとっては高すぎる縁日遊びだ。
キョロキョロと見回しても、街中に他の人間は見当たらない……しんっと静まり返っているのが却って不気味だ。
「うへぇ……マジで怖ぇぇっ」
帰ったら、社長にアンケートの星0個で提出してやるっ!
頭に乗せていたゴーグルを目に装着し、長い髪を靡かせる……あぁ、さっき社長がはめた黒髪ロングヘアのカツラが俺の頭にぴったりシンデレラフィット……しすぎて、現在抜けなくなっていた……。
………………
これ鬱陶しい!
長髪の皆様方、本当尊敬するわ!
カシャン!
「うぉっ‼︎ こ、今度は何だ⁇」
いきなりゴーグルの下から口元を覆うマスクが出現する!
ウィィィィーン……ピーガタガタ……ピピーッ!
突然、電源が入ったように、ゴーグルから電子的な音が鳴り出した。




