小菅(仮)ちゃんの異世界
ほんのり香ばしいバターの香りがする丸太小屋に一人ぽつんと取り残された俺。
はぁっと溜息を吐き、頭を垂れた勢いで、ふっと足元に視線が落ちる。
「あ……しまった……」
くたびれたグレーの靴下が目に入った。
爪先があと少しで擦り切れて親指がぴよっこり出てきそう。
あらやだ、恥ずかしい!
洗面所からそのままこっちに渡ったので、靴は玄関に置いてきてしまった。
……なんだか初っ端からつまづいているが、今更戻る気もおきない。
とりあえず、一つずつ……落ち着いて対処していこう。
お菓子なメルヘン空間でも、行方不明者が出ている異世界だ……気をつけなければ魂は飲み込まれる。
ズボンのポケットからすっとスマホを取り出し、アラームをセット。
前回の異世界の知識がこちらでも通用するかは分からない……が、スマホの中は現実世界の時を刻むはず。
時間の流れは最初にきちんと確認しておこう。
スリ硝子みたいな小窓ごしに外を見るが、何も見えず。
そっと開けようとしたが……これ開かない飾り窓か……触るとふにふにする……なんだっけ、これ……あ、あれだ!
昔、婆ちゃんがくれたあれ……仏壇スイーツ、ゼリー菓子!
……なんか懐かしい。
「他には何か……」
狭い室内を見回すと、何やら重厚な宝箱が片隅に一つ置かれていた。
材質は硬めな……こちらはチョコレートかな?
鍵はかかってないみたい……。
カコンッ!
見た目とは違い、軽く蓋は開いた。
「うわぁ……」
箱の中身を見て、思わずドン引いた俺の声が口から漏れ出た。
なんせ中にはメルヘンな世界に不似合いな武器がごちゃっと収まっていたのだ。
え〜と……マシンガンが三丁、ピストル四丁、弾薬、ゴーグル、グローブ、軍靴……あぁ、靴はありがたいな。
現実世界からの訪問者に対する装備品と考えて、まぁ間違いない。
一つ一つ、中から取り出していく。
手に取ったマシンガンは思ったよりも随分と軽い……思わず銃身を軽くノックしてみた。
コンコンッ
「結構硬いなぁ。匂いは……微かに甘い……これ、飴で出来ている⁉︎」
千歳飴クラスの硬度かな……『齧ったら歯が欠けちまったんだよ〜!』って小学生の時、うるさいクラスメイトが歯を見せびらかして騒いでたっけな。
弾丸は何のお菓子だ?
カートリッジを振ってみても、中身は分からず。
ぶっ放すまでのお楽しみ……ってか?
今度は、ダメ元で右肩を叩く……が、ステータス画面は飛び出てこない。
ぽんぽんぽんっと全身あちこち、くまなく叩いてみるが何も起こらない、な……。
「はぁ……マジかよ⁉︎」
前回は会社員ショータさんの日記で少しは前情報があったけど……だんだんと不安になってくる。
この武器を使って、何かと戦わないといけない、ってことだよな?
敵が出てくるのか? この異世界は……。
一体何が出てくるんだよ⁉︎
俺の頭の中に色んな化け物が次々と登場して、賑やかなサンバカーニバル状態!
……って、そんな愉快な話じゃねぇ‼︎
ぶるっ!
思わず身震い。
何か分からない……ということが、実は一番恐ろしい。
「さて、どうしたもんかな」
その時、掛けていたスマホのアラームが鳴った。




