異世界の終わり、そして……
「ふぷーー‼︎‼︎」
「⁉︎⁉︎」
かろうじてまだ銀色のメーさんが、リュックを咥えながら、必死に階段を跳ね上がる!
「メーさぁぁぁん‼︎‼︎」
崩壊しかけの世界、まだエネルギーはあるのか⁉︎ 最後の賭け‼︎
掌から『粘着』魔法陣を……展開っ‼︎
「よしっ、出たっ‼︎」
びよーーん、ぴとっ!
メーさんを一気に手元へ引き寄せる‼︎
鏡とメーさんが合わせ鏡となり……
びかーーっ‼︎
目も開けられない閃光が鏡から広間に溢れる‼︎
しゅうぅぅぅぅっ……
やがて光は収束……。
目を開けると、土足のまま、俺は綾瀬1Rの洗面台の前に立っていた。
「……い、やったぞーー‼︎ ありがとうメーさん‼︎」
「ぷるぅ!」
高い高いするように持ち上げると、メーさんも金色に光り出す!
「‼︎」
転生者は消滅しない……なんて、ご都合主義が通るはずもなく……。
最期に優しい声を上げた掌上の魔物も光り輝き……粒子となって……そして、消えた……。
ぺたん……
俺はその場にへたり込む……。
「ううっ、メーさん……いや、ショータさん……」
パリィィィーーンッ‼︎
メーさんの『消滅』と同時に洗面台の鏡が割れ散る‼︎
……マサさんの異世界は、これで本当に終わったのだった。
「うっうっ……皆、ありがとう……ございました……ショータさん……チャル……ユルファ……フィング……JJ……トモユキさん……ハヤトさん……マサさん……」
洗面所の床に崩れ落ちた俺は、しばらく独り、泣いた。
止めど無く溢れる涙が枯れ果てるまで……。
しばらく経ってようやく動き出せた俺は、よろよろと立ち上がり、社長に連絡を入れた。
◇◇◇◇
「あ〜あ、洗面台の弁償……貧乏人のお前じゃ無理だろうな」
………………
……異世界から無事に帰還して、一言目は『お帰り』じゃないんですか、社長?
あんた鬼ですか?
現実世界ではたった四時間未満の異世界探検……思ったよりも自分にとってはハードモードだった。
体力的にではなく、精神的に……。
ばあちゃん以外の存在と、こんなに時間を共有したことは、俺の人生で今まで無かったな。
無性に、今はただ……何だか、寂しい……。
「しっかし、酷ぇ顔だな? さっさと顔洗って、引っ越しの準備しろ!」
………………
「はぁ? 引っ越し⁉︎」
また唐突‼︎ 意味が分からない‼︎
「お前、契約書読んで無いのか? 『②出ない物件が異世界消滅し、通常の賃貸物件になった場合、速やかに部屋を明け渡す』って書いてあるだろ? ほら、ココ。契約書はちゃんと読めよ。そんなんじゃ悪い大人に騙されちまうぞ?」
「ほ、本当だ……か、書いてある」
社長が差し出した契約書には、確かに小さく一文が記載されていた。
悪い大人……今まさに目の前で弄ばれておりますが⁉︎
「俺の管轄物件じゃなくなったら、他の不動産屋に引き渡すんだよ。っつうわけで、お前まだほとんど荷解きしてないよな? 二日分の光熱費はサービスしてやる。今から次の物件へ移動するぜ!」
社長はニヤニヤしながら、どこから取り出したのか、新たな契約書をひらひらさせた。
………………
「も、もう事故物件は勘弁してくださぁぁぁぁぁい!」
俺の悲痛な叫び声が足立区綾瀬に響いたのだった。
第一部、完結です。
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