同期
そこに静かに立っていたのはスーツ姿の男性。
ただ、俺が知っている、CMで見た顔よりも皺の少ない……若い頃のセキュリティソフト会社社長……の姿をした魔王。
……あぁ、自分で立てたフラグを回収しちまった。
つるんとシンプル。
だけどこれ、一番強いんだろ?
……まぁ、第二形態の強さはイマイチよくわからんかったがな。
スーツ姿の社長を見て、隣の勇者マサさんが今度はガタガタと震え出した。
現実に近い敵の姿はトラウマを引き出したか?
一番精神的なダメージがでかそうだ。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、だ、大丈夫だ。……実は……同期入社だったんだよ、俺達……。俺は技術部、アイツは営業部。あれよあれよと出世していって……今じゃアイツは社長だ」
マサさんの脳内、色々な思い出が駆け巡っているのか、俯きながらも目が泳いでいる。
ぎゅぅっと手に『倒魔の剣』を握り締めているが……まずいな。
人間の姿の魔王。
いくら憎んでいるとはいえ、人間を斬り殺すという行為は、善良な市民にとって抵抗感が非常に強い。
殺しづらい姿で第三形態か……。
しかも若い頃の姿……ってことは、まだパワハラ発動してない頃、同期として仲良かった時期なんじゃないのか?
マサさん……あんた、剣でこの男を斬り殺せるのか?
「マサ」
魔王が静かに口を開いて、勇者の名を呼ぶ。
「……ユースケ」
勇者もまた魔王の名を呼び返す。
「いつもお前には助けられてばっかだな」
「……」
マサさんの記憶を再上映しているのだろう。
はにかみながら笑う男、世渡りはこの頃からすでに上手かったのかもしれない。
昇進するに従い、少しずつ大切な何かを失って、部下を駒として扱う魔物社長へと変貌していったのだろう。
魔王社長ユースケさん vs 社畜勇者マサさん
「大丈夫。お前は俺の言う通りにしてたら、絶対間違いないってーー」
「⁉︎」
笑いながらそう言う魔王の言葉を聞き、マサさんは、ぎりっと歯を食いしばる!
若い頃の友人の台詞……素直に聞いていた己を恥じるように、彼は剣を目の前に構えた。
「俺を殺す気かい?」
そう魔王は首を傾げて問いかけた。




