バカンス
ザザーンッ……
ここは鮮紅海の砂浜、寄せては返す波の音が心地良い。
白い砂浜にマサさんと俺、仰向けで寝転び空を見上げる……普通なら美しい青空なんでしょうが、どろどろした曇天。
日焼けの心配もない。
「楽しかったな……楽しいって気持ち……久しぶりだな。仕事してる時、何年も……ずっと苦しい、辛いって……そう思ってたからな」
「亡くなって四年……この世界では240年経過してますからね。そりゃ、だいぶ久々でしょうね」
ずっと檻の中で泣き続けていた日々……。
「しかし、詰め込み過ぎな弾丸スケジュールだな。一日目が『獣族の村』で農作業体験だろ?」
あの日『魔王城』を抜け『獣族の村』へと移動。
この村でやる事といえば……思いついたのが、畑を耕したり、果実を収穫したり、虫を採集したり……自然満喫することだった。
その日の夜は、皆でチャルの家に泊まった……ぎゅうぎゅうの雑魚寝も中々、面白いもんだ。
「二日目が『エルフの森』でキャンプ」
「ミーフィさん、驚いてたな」
子供達と生きてもう一度会えると思っていなかっただろう、その上、メーさん……ショータさんと引き合わせた時のお互いの表情……俺はけして忘れないだろうな。
「それにしてもあのエルフのお母さん……子供達に厳しかったな……」
たった一泊のうち、双子兄弟の顔は何度、ボコボコに膨れ上がっただろうか……あいつらももう少し学習しろよな。
「三日目は『雪山脈』でスキースノボ合宿……いやぁ、大学以来だったよ」
「雪兎達がまたすごい綺麗に滑るんですよね!」
俺達の再来で、またも山から滑降してきてくれたのだ。
なんだかんだ優しいツンデレ女王様率いる雪兎軍団。
「それと……お二人にも挨拶した……本当に申し訳なかったな。謝って許されるもんじゃないが……」
氷竜トモユキさんと青兎ハヤトさん、彼らの様子から、マサさんを責めるつもりは無さそうだった。
皆、辛い現実世界を経験された同志。
そして、もう生き返れない、身体の存在しない方々。
「で、今日が四日目ここ『鮮紅海』で釣りと海水浴」
「ビーチでナイスバディな人魚さんも拝めましたし……」
二人して合掌のポーズ。
目の保養、ありがとうございます!
「あっという間だったな……」
「これで、現実世界まだ二時間経ってないんですよ?」
「はははっ! 本当むちゃくちゃだな、俺の魂の異世界は……」
マサさんの視線が、遠くの島へと移る。
「バカンスは今日でお終い……明日、最期の仕事に取り掛かろうな」
「はい。よろしくお願いします」
明日、全てが終わる。




