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オススメ事故物件、今ならサービスで異世界ワープお付けします。  作者: 枝久
1ー7 

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嘆き

 割れた壁、瓦礫(がれき)の崩れる音と共に、荒い息遣いがはっきり聞こえる。


「はぁはぁはぁ……」


 勇者はようやく手を止めた。

足元にはぴくぴくと痙攣(けいれん)しながら這い(つくば)る、不様(ぶざま)な黒い巨体。


「くそっ‼︎」


 さらに一撃、渾身の力で魔王の頭を踏み付ける。


 がんっ!


 地面にめり込み、周囲に床の破片が飛び散る!


「……こんなことしても……何にもならないのに……」


 力無く、勇者が肩を落とす。


「ふっぅっ……」


 ぽたぽたと静かに涙が彼の足元に落ちていく。


 この人は分かっている……時間は巻き戻らない。

死んだら終わり。

遺体は焼かれて、骨は既に墓の下。


 行き場のない魂だけが、今、ここにある。


「大学卒業して、就職してさ……毎日会社と家の往復で……その日その日なんとかこなして……上司にボロクソ言われて、無茶なスケジュール振られて……それでも一生懸命、20年も働いて……気づいたら、死んでたって……俺の人生、一体……何だったんだろうな?」

「……」


 まだ就職したことのない俺には何も答えられない。

ただ一つ言えること……。


「今……突然死した、ご自分のこと……こうして振り返り出来ていることは……幸福なんでしょうか?」

「……どうなんだろう? ただ……」


 ふいっと足元に転がる魔王に視線を落として言う。


「……ちょっとは『ざまぁっ』って思ってるよ」


 ふっと口の端が上に上がる。

初めて、この人は穏やかな顔を取り戻したようだ。


「あの……もう少し……やり残したことをやりませんか?」

「?」


 綾瀬(仮)さんはごしごしと袖で顔を拭い、俺を見る。


 俺は『どうぐ なべ』を取り出した。

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