眠れない……
あぁ……引っ越してきてしまった……。
布団に寝転び、天井を仰ぐ。
カチコチカチコチカチコチ……
目覚まし時計の秒針音がやたらと大きく聞こえる。
01:30
眠れない……。
身体は疲れてるのに、頭に眠気がまだまだやって来ない。
洗面台の鏡にはタオルを掛けて鏡面部分を覆い隠した。
事故物件で、行方不明者が三人出ていて、異世界への扉が洗面台にある……というとんでもないことを除けば、条件バッチリな格安物件に引っ越せたし、引っ越し代もサービスしてもらえたから……ラッキーだった……んだよな?
しかし……
チラリと洗面所のドアに目を遣る。
気になる……。
いやいやいや、俺は絶対に異世界なんて行かないぞ‼︎
ぎゅっと目をつぶっても、昼間に見た異世界の光景が目の裏に焼き付いて離れない。
好奇心が頭を擡げる。
ダメと禁止されると、やりたくなってしまう人間心理……なんて言ったっけ?
前の居住者さん達が戻らない理由は何だろう?
何か魔物と遭遇して、もう死んでる?
それともハーレム状態で戻って来たくない?
あーー‼︎ 気になって仕方ない‼︎
ぐるぐると堂々巡りが頭を支配して……いつの間にか俺は眠りについたのだった……。
◇◇◇◇
んっ?
……いつの間にか眠ってたみたいだな。
周りは真っ暗だから……今はまだ真夜中か?
……なんだ? 息苦しい……?
何か冷たい物が、顔の上に乗っている……?
ぐっ……やべっ……息が……!
やばい! マジでやばい、死ぬ死ぬ死ぬーー‼︎
顔の上の何かを力の限り壁に放り投げた‼︎
「ぷるんっ!」
「ぜぃぜぃっ……はぁはぁはぁ……」
危ねぇーー!
窒息するところだった……!
事故物件で死ぬとか、面白く無さすぎだろ⁉︎
マジ笑えねぇ‼︎
「はぁはぁ……な、何なんだ一体⁉︎」
ぱちっ!
部屋の電気を点ける。
眩しくて細めた目で部屋を見回し……。
あれ? 洗面所のドアが……開いている⁉︎
「ひぃぃぃぃぃぃっ‼︎」
ずささささっと壁際へ高速で後退る‼︎
俺の向かい側の壁の下、謎の銀色の丸っこい生き物がぷるんぷるんと揺れてやがる⁉︎
……ん? ぷるぷる?
「ぷるるーー」
目に涙を溜めた、いや、目は無いや。
メタリックなスライムが震えている……のか、ただぷるぷる揺れているのか……?
⁇⁇
つーーか、何でこの部屋にいるんだ⁉︎
魔物は通り抜けられるのか⁉︎
おいおい、聞いてないぞ‼︎ 社長‼︎
くそっ騙された‼︎
「ぷるーー……」
「あ、あれ?」
こいつ……なんか泣きそうな顔してる?
……もしかして、お前も……不安なのか?
迷い込んできただけなのか?
そろーーっと近づいて、恐る恐る……人差し指でつつく。
ちょん!
「ぷるーー!」
……鳴いた?
不思議な感触だ。
滑らかな金属みたい……だけど、冷たい。
綺麗な銀色……ピカピカだ。
「あっ! もしかして……」
合わせ鏡の法則‼︎
こいつの光り輝く身体が鏡代わりになって、こっちの世界へ通り抜けてきたのか‼︎
俺達はじーーっと見つめ合う。
こいつに目は無いが……たぶんこの辺かと思うところを見つめる。
「……お前も、急な環境の変化で大変だったな……」
「ぷるーー?」
手を伸ばし、そっと抱き上げる。
なんだか、少し愛着が湧いてしまう……。
おい、可愛いな……。
「お前さんを元の世界に戻してやらないとなぁ……」
「ぷるるーー」
さて、俺も異世界へ行く理由が出来ちまったなぁ……。