姫?
ここは綾瀬(仮)さんが創造主の異世界だ。
最初から、なんだか違和感はあった。
某動物スローライフなほのぼの世界を彼が望んでいたのなら、俺が『冒険初心者』である必要はない。
ただの新人の『村人』でいいのだ。
この世界全部を『獣族の村』拡大版として、穏やかに暮らせば良いだけの話。
だから、違う。
この世界は……舞台だ。
彼が生きてきた現実で叶わなかった願いをこの世界で叶える……その為には、同じ状況を作り出す必要があった。
もちろん、本人が意図してやったわけじゃ無い、無意識……魂のエネルギーによる構築。
それがたまたま、ゲームのRPGの世界観に類似しただけ。
舞台は整い、そして、待った。
だが、魔王城で待てども待てども……誰も助けには来なかった……。
皆が幸せそうに暮らしてるのに……どうして自分だけ……救われない?
それは死ぬ前の現実世界と何ら変わらない、苦しみの世界。
……そして、時は流れた。
「……ずっと……あんたは誰かに、助けて欲しかったんだよな?」
檻の外から、中へと呼びかける。
涙で顔がぐしゃぐしゃになったおっさん……綾瀬(仮)さんは、こくんと頷いた。
転生者と同じで言葉は話せないのか?
……それとも240年泣き声を上げるのみで、言葉を忘れたか。
ガチャリ……
右手で掴んでいた『女王様の鍵』は、見事に荊の檻の錠前を開けた。
ひゅるん、すたっ!
『粘着』をしまい、一足先に広間へ降り立つ俺。
その後から眩い光と共に、おっさん姫様がふわりと地面に舞い降りる。
暫くぶりの立位はふらつくのか?
運動不足だな。
「魔王が言った通りなら『冒険者』の俺に、アイツは倒せねぇ……」
「⁉︎」
「だから……ほらよっ‼︎」
左脇に抱えていた氷竜さんから摘出した『倒魔の剣』……その鞘を握り、思い切り近距離でぶん投げた‼︎
がつんっ‼︎
「あ、すんません」
「⁉︎」
おっさん姫の顔面ナイスキャッチ‼︎
顔の中央に赤い痕が付く。
「俺はただの『冒険者』……この世界の『勇者』はあんただろ? 姫様」
「‼︎」
登場人物が足りなかったが、今、ここで揃ったのだ。
『勇者姫』が自らの手で魔王を倒さなければ、この異世界に決着がつかない。
「戦え。そして勝ち取れよ。あんたの魂はあんた自身の手で救うんだよ」
知りもしない誰かに命運を委ねるのではない、確実に己のエンディングを見るために……。




