業火
目を凝らし、ほんの一瞬だが、スーツ姿の魔物達の奥に、確かに大きな……鳥籠の様な物を見た。
囚われの姫様は、あの中か……⁉︎
さっと、視線を目の前の魔物の大群へと戻す。
こいつらは、イメージから実体化した存在……だとしたら……思う存分、ぶっ飛ばしていいよね?
ごぎゅぐぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎
異様な咆哮を上げ、一斉に魔物が襲いかかってくる‼︎
俺は子供達の前に一歩、進み出る。
「ハル様⁉︎ 何を⁇」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎‼︎」
最大級の『火』の魔法陣を両手で発動‼︎
「くらぇぇぇぇぇっ‼︎‼︎‼︎」
どぉぉぉぉぉぉぉーーんっっ‼︎‼︎‼︎
爆発で熱い閃光と黒煙が舞い上がる……そして、徐々に、視界が開けていく……。
「……あっ……えっ?」
何が起こったかわからない様子の子供達。
それは言葉通り、『あっ』という間だった。
目前に迫っていた大量の魔物達を、俺の魔法陣で跡形もなく消し飛ばしたのだ。
すでに『火』の魔法陣の力は最大レベルまで引き上げ済。
これを両手で発動し、大火炎を引き起こしたのだ!
『業火』の魔法陣。
誰かが転生していたり、自我がある魔物はすんげぇ倒しづらいが、幻影から生まれたんなら、俺は躊躇することなく滅することができた。
魔法陣……全力だとこんな感じなんだ、すげえな‼︎
テンション上がって、ドキドキする‼︎
「ハルって……強かったんだ?」
ユルファがぽつりと呟く。
この異世界、冒険者チート仕様なのはどうやら勘違いではなく、本当らしい。
ただ、それだけではない。俺の力だけでは……。
……それが貴方のご希望なのでしょう?
しかし……スーツの魔物って……このイメージは、悲惨だな。
共に仕事をする仲間は、助けてくれない己の敵……魔物の様な恐ろしい存在として、常に感じていたのかもしれない……辛ぇな。
煤けたレッドカーペットを進み、その先に続く階段の上を見上げる。
壇上の最も高い位置にある王の玉座。
そこに座る暗黒の巨体と、そこから眺められる位置に吊るされた荊の檻。
「よく……ここまで来たな……」
低い声が空間に響き渡る。
……うげっ、魔王様が喋ったよ!
しくしく……しくしく……ひっく……っく……
そして、静まり返る広間に啜り泣く声も響く。
俺達の位置からは、見上げてもトゲトゲした檻の底面しか見えないが、声はその中から確かに聞こえる。
240年もの間……ずっと泣いていたのかよ、お姫様?
………………
……少し……気に食わねぇな。
俺は檻を下から睨む。
「……貴様が……『勇者』か?」
段上から、再び魔王が話し始める。
うぉっ⁉︎
身体のどこから出したらそんな声が出んだよ⁉︎
ビリビリと、皮膚が痺れるような重低音ボイス。
魔王の問いかけに、ちょいビビりつつも、答える。
「……俺は『勇者』じゃない」
俺の役割は間違いなく、ただの『冒険者』なのだ。
「……では、貴様に……我は倒せぬな……」
そう言って、右手を横にすっ、と振り払った。
ぶわぁぁぁぁぁーーっ‼︎
軽い一振りで、瞬間、俺達全員の身体は後方へとぶっ飛び、壁に叩きつけられる‼︎
ずどぉぉぉぉぉんっ‼︎‼︎
「ぐあっ‼︎」
痛ってぇぇぇぇ‼︎
くそっ、異世界でもやっぱ痛いもんは痛いんだな……。
ちっ、流石は魔王様、ってとこか。
周囲に目を遣ると、子供達が痛みから床に這いつくばっている……だが、取り敢えず全員生きている。
……あ、残念。
JJの顔面パーツは、また全落下。
目の前の敵は、のそりと玉座から立ち上がったと思ったら、階段をゆっくりと降りてくる……そこ、飛ばないんかい⁉︎
ちゃんと一段ずつって……現実もそんな風に圧迫感を与える登場だったんかな?
魔王の顔に俺は見覚えがあったのだ……。
CMで見たよ、ブラック企業の社長さん。
死んでも尚、この野郎に囚われ続けているのか。
……だとしたら、姫様の解放はこれしかないだろう。
コマンド『どうぐ』の中から、光る選択肢を叩き、取り出した。




