どれかなドア
空飛ぶ乗り物メーさんで天井近くまで舞い上がり、この部屋が床の無い部屋だと知る。
………………
ひぃぃっ、怖っ‼︎
殺る気満々だな、魔王城‼︎
HP、MP♾️ とか、そんなの関係ねぇのな⁉︎
入ってきた扉の真反対の壁も異常。
前面にドア、ドア、ドアのドアだらけ‼︎
古い木製っぽいボロ戸から、映画館の入り口風、魔王の間にお似合いな扉や無機質なアルミ製ドアまで多種多様。
いったい何個あんだよ⁉︎
下の方にも続くが、闇が濃くて、把握できない。
「ふざけんなっ! くそっ、どれだよっ⁉︎」
「ハル! カギが合うのが本物のドアか⁉︎」
双子が俺を振り返る。
「待ってろ、えっとカギ……」
コマンドを開けるが『どうぐ かぎ』の選択肢内、女王様の鍵が光らず⁉︎
選択不可だと? はぁ⁇
「「……」」
チャルとJJが握った手に額をつけ、祈るポーズ。
……チャルはドアの発見を、JJは己の身を案じているっぽいな、これ。
「メーさん、あとちょっと頼んます!」
銀色の足元に手をつき、さらに『風』を追加する!
考えろ……。
こっちの壁の扉……元々、最初からあったものが一つ……か?
鍵は……ここでは必要ない? 前冒険者では鍵は一つだった。
その周りにフェイクのドアが増えてった?
変化で追加されたのか?
だとしたら……。
社長に確認したいことが頭に浮かぶが、電話は通じない。
ちっ……さっき聞いときゃ良かったな。
「俺の推測が正しければ……」
見回しながら、よくよく目を凝らす。
目印は絶対に付いているはず……。
ドアの表面に素早く目を走らせ、あるドアで視線がピタッと止まる。
「見つけた‼︎ アレだっ‼︎ メーさん! お前ら! このまま、あのドアに突っ込むぞぉぉぉぉ‼︎」
「「「「えーーーーっ⁉︎」」」」
「行けぇぇぇぇ‼︎‼︎」
子供らの戸惑いをガン無視してメーさんを加速‼︎
ばたーーーーん‼︎
俺の読み通り、ドアは開き、そのまま中へ勢いよく突っ込む‼︎
舞い込んだ風がすうっと立ち消え、目の前が明るく開ける!
そこにはうじゃうじゃと魔物達……が、いなかった。
ここは魔王城の……恐らく王の間。
玉座はあと少しだろう……そんな気がする、確証に近い予感。
とんっ!
空飛ぶメーさんから俺達は地面に降りた。
双子がメーさんを丁寧にこねながら、伸び切った長方形型から元の丸いスライム型へと戻してくれている。
「メーさん、ありがとうございます」
「ぷぷっ!」
ちょっと歪なスライム型へ戻ったメーさんにお礼を言う。
「ハル様……ここ……何?」
チャルが目の前の状況に戸惑いを隠せない様子。
隣のJJも呆気に取られているのか、声も発さない。
無理も無いな、チャル達は見たことのない光景だろう。
そこには大量の魔物達の姿……はなく、いるのは慌ただしそうにオフィスで仕事をするスーツ姿の人間達の姿。
パソコンを打ったり、電話をかけたり、書類整理したり……。
いや『いる』という表現は、合っていないかもしれない、イメージ映像の様なもんだろう。
実体が無く、向こう側がやや透けて見える。
働いているのは全体的に若い世代だな。
年功序列ではなく、実力重視の会社……と言えば聞こえがいいが……リストラ? 自主退職?
ふと、ケルベロスの間と昔見たテレビの映像を重ねて思い出す……都心のどこぞのオフィスビル、エントランス部分がまるで神殿のようだったことを……。
本当はドアを探す時、スマホの電波が通じてたら社長に確認したかったのだ、会社名を。
なんちゃら、セキュリティソフト株式会社……何だっけな……っと思っていたら、ドアだらけの壁の中に、見覚えのあるステッカーが貼られたオフィスドアを見つけ、俺は迷わず飛び込んだのだった。
ここだ、と。
『SSS』シズルヤ・セキュリティ・システム株式会社。
綾瀬(仮)さんが亡くなる前、社畜として働いていた有名な会社。
CMを見たことがあって、頭の片隅に会社マークが残っていた。
魔王城の深い所へ近づけば近づく程、この異世界の創造主の意思が色濃く出てきた気がする。
ここは彼の魂が作り出した世界。
亡くなる直前まで、いや、亡くなるとは予期していない頭の大部分を占めていたもの……。
幻影か? 彼の記憶か?
貴方が働いていた『オフィス』という名の……『地獄』……。
……違和感しかないな。
「うわぁ! 何だ⁉︎」
突然、ユルファが声を上げる。
会社員達の顔が見る間に、ぐにゃりと魔物へと変化し、透けていた身体は具現化する。
パソコンは大剣に、電話は鞭へ、椅子はトゲの鉄球へ……当たったら痛いじゃ済まされない武器へと変わる。
……おいおい、マジかよ⁉︎
そして、オフィスの幻影はいつの間にか立ち消え、『魔王城、謁見の間』と呼ぶに相応しい赤い絨毯が床に出現していた。
広間に犇めく、獰猛そうな魔物達。
いつでも飛び出て来そうな緊張感が漂う。
そして、見えた……その魔物達の奥に、吊るされた、揺れる大きな鳥籠を……。




