最後の円陣
大鏡はただの壁の役割に戻り、しんと静まり帰る鏡の間。
スマホを取り出してみるが、圏外。
鏡では通信できても、やっぱり駄目か。
「さてと……気合い入れていくか!」
チャルと俺は手をぎゅっと繋ぐ。
それに続……かず、ユルファはチャルの尻尾を掴み、フィングがユルファの耳を摘み、フィングの肩に乗るメーさんを掴みたいけど掴めないJJがムキになっており、俺の左手は空席だ。
……最後の円陣くらいはちゃんとやろうぜ、なぁ。
そう、最後……。
視線はチャルの方を向いてはいるが、焦点の定まっていない俺の瞳。
「ハル様?」
「あ、いや……何でも無い」
ここまで来て、今更感がある。
さっきの社長との会話で、あらためて自分の足場を確認させられた。
この異世界は終わらせなければいけない……だけど……目の前の子供達も消さなければならない……。
異世界の最後って、いったい……?
いや、何を躊躇うのか?
……ここは現実ではない、登場人物達が動き回る仮の世界だ。
こいつらは生きてなんて……生きては……。
「よし! 行くぞーお前らーー‼︎」
「「「おーー‼︎」」」
迷いのある俺の代わりに、賢者が声を張ってノリノリの子供らをまとめた。
複雑な気持ちを抱いたまま、俺は右肩を力無く叩き、コマンドから雪兎…青兎ハヤトさんの鍵③を手にする。
じっと見つめ……ぎゅうっと、鍵をきつく握り締めた。
……やるしかないのだ。
ガチャリ……
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
重い扉を開け、一歩を踏み出す!
すかっ!
「ん?」
……あるべきはずのところに、地面がなかった。
俺の足は、空中を踏むことはできず……。
「あ」
「「「「あーーーー‼︎‼︎‼︎」」」」
「くっそぉぉぉぉぉぉっ‼︎‼︎」
油断した! 床が無ぇぇぇーー‼︎‼︎
ドア開けて一歩目がいきなりこれは、ちょっと狡すぎねぇ⁉︎
リアルフリーフォール⁉︎ ふざけんじゃねぇぞ‼︎‼︎
「いやぁぁぁぁ‼︎」
「「ぎゃぁぁぁぁ‼︎」」
「俺には見える、走馬灯が……」
「ぷぷぅーー‼︎」
全員……いやJJは除く、が叫びながら真っ逆さまに堕ちていく‼︎
真っ暗な先は底無しか⁉︎ 亜空間⁇
「ちっ、こんなとこでくたばってたまるかよぉぉぉぉ‼︎‼︎ ユルファ、フィング! メーさん思いっきし広げろぉぉぉ‼︎」
「「おおう‼︎」」
「ぷるんるーー‼︎」
双子がびよょーーんとメタリックな親父さんを長方形、レジャーシートの様に引き伸ばす‼︎
すんません! しばし頑張ってくださぁぁい‼︎
「全員、メーさんに乗れぇぇぇ‼︎‼︎」
胸の前で手を組んで悟りを開こうとしやがるJJが空中で引き離される‼︎
「こらっ!」
『粘着』で取っ捕まえ、手元に引き寄せ、頭をコツンと小突く。
「行くぞぉぉぉぉぉ、おぉぉいっ‼︎‼︎」
がばっと両手をつき、全力の『風』魔法陣をメーさんに展開!
フルスロットルで吹き上げる‼︎
ブォォォンッッッ‼︎‼︎
銀色の空飛ぶ絨毯、ならぬ空飛ぶスライムマットで俺達は高く高く舞い上がったのだった‼︎




