流れ作業
「はーい、どんどん進んでね!」
チャルが雪兎軍団を並べて、ユルファとフィングがどんどん捌いていく……と言っても切り刻んでいるわけではない。
「な、何をしておるのじゃ?」
女王様がキョロキョロと、見慣れない光景に戸惑っている。
俺はちょっと考えて、『X線検査機』の魔法陣を錬成したのだ。
空港の手荷物検査のように、魔法陣の上をどんどんと一列に並んだ雪兎が通過、魔法陣が発する眩い光が身体の中を透かして探知。
ブーーッ!
異物を発見次第、ブザー音が鳴る。
「おい、ハルーー!」
検知された雪兎は二匹。
ユルファとフィングがそれぞれ一匹ずつ抱っこしている。
JJとは違い、雪兎の身体はそこまで簡単には溶けないようだ。
くるりと振り向き、俺は先輩方に声をかける。
「お待たせしました」
巨大な氷竜さんの隣にはリュックの上にちょこんとメーさん。
その隣にはまだブルブル震えている青兎さん。
すぐさま逃げ出すと思ってたけど……どうやら逃げ出せなかったのだな。
腰が抜けたんだろう。
「さぁ……鍵を頂きましょうか?」
カツアゲするヤンキーのように、俺はずいっと青兎さんの前に顔を突き出した。
青兎さんにとったら、魔王よりもなにより恐ろしい最新の冒険者。
「キューーッ‼︎」
怯え、かよわく鼻を鳴らす。
兎に犬猫のような声帯は無く、鼻を鳴らして感情を露わにする。
この雪兎達も同じだな。
青ざめた兎……青兎さんを、そっと持ち上げ伝える。
「俺は、この世界を終わらせに行きますよ。終わらないこの世界を……」
前にメーさんにも言ったな、同じ言葉。
俺の言葉を聞いた瞬間、青兎の眼からポロポロと雪の結晶が止めどなく溢れ落ちる。
氷竜も何も言わないが、首をゆっくり下げた。
一礼したように見える。
この異世界で亡くなり、転生して少なくとも60年以上経過しているのだろうか?
いつ記憶が戻ったかはわからないが、知識のある者が言葉の話せぬ魔物になり、燃やされ消滅しても、また転生させられる……この世界が終わらない限り、きっと延々と……。
辛く苦しい現実世界から逃れた先は、穏やかで甘美に魅せたハリボテの世界。
地獄の先が、天国のフリをした地獄。
「……」
少し間があってから、俺の手の中で、もぞもぞと動き出した青兎さん。
そっと小さな身体を雪の上に下ろす。
彼はスカートを捲し上げるように白い皮をよっこいせと持ち上げ、ゴソゴソと中を弄っている。
そんな所に隠してたの?
すっと、女王様のとは違う形の鍵を俺に差し出した。
次に、ぴょんぴょんと双子の所に行き、残り二匹の鍵も皮をびろーーんと捲り、取り出した。
……なんか身体の構造面白ぇな、よく伸びる皮だこと。
こうして氷の魔物達を溶かすことなく、俺達は静かに四本の鍵と剣を手に入れたのだった。




