お昼の時報
女王様が俺達を見渡し、すぅっと目を細める。
赤い瞳に怪しい光が宿り、美しい顔がなんだか意地悪そうに醜く歪む。
軽い沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開いた。
「妾達が鍵を……」
ぐきゅるぅぅぅぅぅぅぅぅーー‼︎
「あ……」
女王様のたぶん結構だいぶ重要な台詞を思いっっ切り遮るように、チャルのお腹の虫の鳴き声が雪原に響き渡る。
あぁ、そういえば、エルフの森での朝ご飯から、まだ昼ご飯休憩を取っていなかった。
雪原はこの世界の太陽を隠してしまうから、はっきりとは時間がわからない。
チャルの腹時計がお昼をお知らせしまーーす。
「ちょっとすみませーーん! 子供達のお昼ご飯の時間なんで、食後にまた来てもらってもいいですか?」
「な、なんですってぇぇぇぇぇぇっ⁉︎」
女王様はご立腹‼︎
まぁ、当然ですよね?
せっかく雪山から滑り降りてきたのに、また戻らされる屈辱。
リフトはないから、どうやって戻るんだろう?
「嫌だわ、なんて軟弱な仲間なのかしら? 私の優秀な兎達とは大違い……」
きゅるぅ。きゅるぅ。きゅるぅぅ……。
「……」
雪兎軍団の腹の虫達も、つられて鳴き出した。
……お前らの主食って何? 凍ったニンジン?
女王様と雪兎達はぞろぞろと、とりあえず帰って行った。
しばしお昼休憩。
また後ほど軍団で滑り降りてくるんだろうな、次は直滑降か?
頭の中で雪兎達が一列に並んで滑り降りるイメージ……おっ! 見てみたいかも!
俺の横には腹が減って動けないチャル達が雪の上で座り込んだり、寝転んだり、頭をJJの胴体に突っ込んだりしている。
……うん、相変わらず、自由だ。特にユルファ、お前だよ。
今度は後ろを振り返り、頭上に向けて腹から声を出す。
「なぁ‼︎ あんた『かまくら』作れるかいっ?」
氷竜に大声で話しかけた。
「……」
無言。
巨体は微動だにせず、返答は無い……が俺の声は届いているように見える。
次の瞬間、ぐぅっと顎を上げ、大きく口を開き、放たれる‼︎
氷竜の息吹‼︎
どぉぉぉぉぉーーーーん!
小さな氷山に穴が空き、氷の洞窟ならぬ、トンネルが出来上がった。
………………
かまくら……いや、思ってたんと違う……もっと、こう、大福のような、つるんと……。
っつうか、貫通しちゃ駄目じゃん!
こんな風通し良過ぎじゃ、意味ないから‼︎
……あぁ、こいつが敵じゃなくてよかった‼︎
マジで……。
急ぎ『氷』魔法で修繕し、ちょっと歪なかまくらを仕上げた。
次に、リュックから、ミーフィさんに渡されたピクニックセットを取り出し、かまくら内にレジャーシートを敷く。
中に子供達を転がすが、JJは入り口の外。
おい、いじけるなよ。
だってお前、中身出ちゃうだろ?
右肩を叩いて、コマンド『どうぐ くすり』を開き、『ミーフィのご飯』を選択、ミニテーブルへと並べる。
「「なんで⁉︎ 母ちゃんのめし⁇」」
双子が驚くのも無理ない、教えてもらった時に俺も驚いた。
医食同源。
『食べるものと薬となるものの源は同じ』と言って、ミーフィさんが旅立ちの前、ぎゅうぎゅうこれでもかと詰め込んできたのだ。
世間のお母ちゃんあるある、食べ物いっぱい持たせたがる。
……出来ればピクニックセットもリュックじゃなくて、謎の収納空間『どうぐ』に入りませんでした?
微妙に重かったぞ?
「「「いただきまーーす‼︎」」」
ようやく子供達の元気な声が戻り、かまくら内はランチ争奪戦の舞台へと化した。
それを眺める俺の隣で、静かにメーさんが鉱物ではなく、サンドイッチを食べている。
ぽろぽろと時折、涙のような水を溢しながら……。
よかった……懐かしい味でしたかね。




