雪崩?
雪の斜面を滑走する雪の大群……そう大群が走ってくる‼︎
雪崩だと思ったそれは、雪崩ではなく、雪兎の群れ!
雪山を猛スピードで滑り降りてくる‼︎
だんだんと距離が近くなってくると、美しいシュプールを描く個体も数体見られる。
あっ、あいつコークスクリュー決めやがった‼︎
ざぁーーっ!
雪兎集団は雪を撒き散らし、見事なターンを決めて停止したのだった。
「雪崩?」
じろっと賢者に視線を送ると、すぃーーっと視線を逸らせ口笛を吹く……無駄な誤魔化し方。
ん? その顔で口笛吹けんの? どうやって?
唖然とする俺達の前に、雪兎集団の中から一匹がぴょんと飛び出した。
「あら、剣は手に入れたのね」
そう、二足立ちした雪兎は言葉を話す。
真っ白な身体にメーさんより一回り大きい程度のサイズ感。
赤い瞳はさくらんぼの様に艶やか。
他の個体と違うのは、頭に小さな氷の冠を載せている。
「ふふっ」
不敵に笑ったと思ったら、周囲の雪を巻き上げ、小さな竜巻をその身に纏う。
ぶわぁぁぁぁっ‼︎
次の瞬間、ふっ、と竜巻が消失し、そこには人型……いや、獣族型の魔物が立っていた。
舞い散った雪の結晶が光に反射して煌めく。
変身……兎型から兎耳の獣族型に姿を変えた雪兎の代表者。
「驚いたかい?」
そう言って、ふっと微笑む。
その姿を見て、一瞬、俺は呼吸を忘れた。
ふわふわっと長い兎耳、透き通る銀髪とスタイルが際立つ純白のマーメイドドレス。
その手には金色の杖。
赤い瞳と赤いマントが白との対比的で雪原に鮮やかに映える。
頭にはさっきのまま、キラキラとした小さな氷の冠をちょこんと載せている、威厳ある風格は王女ではないな…美しい女王様だ。
なのに……俺は下を見下ろす……そう、下。
ちょこん、と。
サイズが雪兎のまま……そう背丈が小人なのだ。
……何でだよーーミニマム女王様ーー‼︎
それだけじゃない‼︎
兎の変身! 男だったら……男だったら、バニーガール妄想するでしょうが‼︎
えーー!
ちょっとくらい夢を見させてくれてもいいじゃんかよーー‼︎ あぁーー‼︎
健全な男子である俺は勝手に期待し、一人で落胆したのだった。ちーん。
ふと、メーさんが俺の手の中でぷるぷると小刻みに震えている……少しも寒くないはず……怯え? 困惑?
俺は雪兎達とメーさんを見比べる。
……そうか……おそらく氷竜の時と同じ。
ショータさんは『炎』で雪兎を溶かして……魔王城の鍵を手に入れたんだな。
魔物を倒して何が悪い?
アイテムを手に入れる為には仕方ない尊い犠牲だ……と言えば聞こえはいいが……。
こちらの都合で、一方的に魔物を排除したのだ。
氷属性の魔物が溶かされる、それは当然『死』を意味する……この世界では『消滅』だったな。
自分の過去の行動を振り返り、そして戦慄。
正義の名の下の虐殺は戦地では英雄だが、平和の上で晒されればただの罪人だ。
それと似たような感覚に今、メーさんは襲われているのかもしれない。
同じ魔物に転生して知る、向こう側の感情。
ふと『エルフの森』で見たスマホの写真を思い出す。
数は少ないがショータさん自身が映る写真も数枚残っていたから、顔は知っている。
穏やかで柔らかい表情は、たしか家族写真だったかな?
この世界の前冒険者として何の疑いもなく、突き進んでこの『雪山脈』を攻略、魔王城の前へ行き……そして貴方は気付いたはず。
この異世界は何かがおかしい。
安らかな死後にも地獄を見せてくる……この世界は終わらない悪夢だ。




