出ない物件
「はい、契約成立、おめでとーー。凪杉 陽様ーー!」
パチパチパチッと社長が拍手する。
長い葛藤の末……俺はサインしてしまった……。
だって……だって、魅力的だったんだよーー‼︎
月1.8万円‼︎
「で、契約したんだから、②出ない物件について説明してくださいよ!」
「分かった分かった」
社長は何故だかすっごく楽しそうだ。
俺はこんなにぐったりと疲れ果てているのに……。
「さっき、セバメから何か渡されただろ?」
「あ、これですか?」
「そうそう」
ポケットから、渡された鏡を取り出す。
社長が俺の腕をスッと掴んで、掌の鏡を洗面台の鏡と合わせ鏡になるよう向ける。
合わせ鏡って……あの世が映る、って言われるやつだよな⁉︎
おいおいおい、大丈夫か⁇
「この部屋は、こうすると……」
二つの鏡が突然、光り出す‼︎
「くっ‼︎」
眩しくて目が開かない‼︎
カッ‼︎‼︎
強い閃光が起こった、次の瞬間‼︎
「こうなる」
だんだん光が落ち着いていき……そっと目を開けると……。
俺達は、何故か丸太小屋の中にいた。
⁇⁇
「なっ、分かったか?」
………………
「いやいやいやいや、分からーーん‼︎」
ドヤ顔の社長に、全力否定の俺‼︎
……えっ?
分からない俺が悪いの⁇
なんでそんな残念なもの見る顔でこっち見てんの⁇
社長が腹の底から、はあーーっと溜息をつく。
「だ・か・らーー、死ぬと部屋に魂のエネルギーが残されるって言ったろ? そのエネルギーが別な世界を鏡の向こう側に作り出すんだよ」
「いわゆる異世界ってやつだな」
………………
理解が追いつかない。
えーーと……つまり……俺が契約した事故物件は、②
①幽霊が出るルームシェア用の物件
ではないが、
②幽霊が出ない代わりに異世界へワープできる物件
……だ、そうだ。
……クーリングオフは可能でしょうか?