摘出
「ぷぷるぅ?」
「えっ? 『どうすんのか?』って?」
少し心配そうな声、優しい親父さんとしては当然の反応だな。
自分の子供に危険なことをやらせようというのか⁉︎ と。
「ま、悪いようにはしませんよ」
「おーーい、お前らーー‼︎ ちょっとこっち来て背中向けろー‼︎」
皆、雪遊びで冷えたな、顔が赤くなっている。
素直に横並びになった子供達の背中に、ペタペタと『貼るカイロ』の魔法陣を貼っていく。
……フィングの隣にJJ並んじまってるが、お前には貼らんぞ、溶けるわい。
くるっと双子の方に向いて尋ねる。
「お前ら、『氷』の魔法陣は使えるか?」
「当たり前だろーー?」
「基礎中の基礎だ」
ふふん、と鼻を鳴らす二人。
それを聞いてチャルが疑問を呈す。
「何で『氷』? 氷竜の相手なら『炎』の魔法陣じゃないの?」
「言っただろ? 『摘出』って。別に氷竜倒すつもりはねぇーーの。剣だけ取り出せりゃそれでいーーの」
余計で無駄な事はしない主義。
魔物であっても、無闇に葬るつもりはない。
「ユルファとフィングは少しの間、『氷』の魔法陣で氷竜の動きを止めてくれ……止め切れずに氷竜が暴れるようなら、すぐにチャルが二人を抱えて逃げること。わかったか?」
「「「はーい‼︎」」」
三人揃って手を挙げる。
うん、良い返事だ、よろしい。
「メーさん、これ預かってて!」
肩にかけていたリュックに魔法陣を貼って雪上に置き、その上にメーさんを乗せた。
「ぷる!」
「「ハル! 準備オッケー!」」
ユルファとフィングが氷竜の背後で、魔法陣を両手の前で展開。
さらにその後ろでチャルが重心を下げ、武闘家の構えを取り、いつでも飛び出せる準備。
意外にもJJは何も言わずに、ことの成り行きを見守っている……賢者は何を考えているのか。
氷竜は目を閉じ……ただ静かに座ったまま。
……もしや、こちらの声を理解できているのか?
それとも、倒される役割を知っているのか?
「いくぞーー‼︎」
俺の合図で、双子が『氷』最大出力で発動‼︎
カキィィィーーンッ……
氷竜の両足元から尻尾は、雪原から生えた無数の氷の塊により、純白の大地にしっかり繋ぎ止められた!
俺は氷竜の左脚の前に立ち、自分の背丈より大きい爪に左手でそっと触れた。
そして、ずぼっと右手を爪の中へ突っ込んで、ぐっと剣を掴み、一気に引き抜く!
一瞬の出来事。
ぽたぽたと、水の滴るいい剣が引っこ抜けたのだ。
「……はぁーー⁉︎ ど、どうなってんだよ⁉︎」
今まで黙り込んでいたJJがとびきり大きな声を上げた。
「どうなってる……って、『摘出』だって言ったじゃん」
『火』の魔法陣は最上級まで錬成してある為、魔法陣を作り出さなくても右手で触れるだけで発動が可能。
同時に左手で『氷』の魔法陣を展開。
右手で氷を溶かし進み、左手は周囲を再凍結させながら、氷竜の身体に手を差し込み、取り出したのだ。
きっと、痛みも最小限のはず。
「ユルファ! フィング! 解除だ!」
その声で、氷竜の足元の氷塊はふぅーっと粉雪に変わり、消えた。
「おーーい、チャルも解除だーー!」
戦闘態勢を解き、大きく伸びをする子猫娘。お疲れさん。
氷竜を見上げ、礼を言う。
「ありがとう。お前は賢いなぁ」
すぅーっと、氷竜が重い瞼を上げる。
透き通ってキラキラしたガラス玉の様な瞳がこちらを見た。
……何を考えているのか、竜の気持ちは読めないな。
「こ、こんなの……冒険者のやり方じゃない……」
振り返ると、JJが身体を震わせ、呟いていた。




