氷竜
少し考えてから、俺は『エアコン』の魔法陣をさらに錬成……ちーーん、と完成したのは、掌サイズ朱色の魔法陣。
パーカーの背中に護符のように貼り付け、上空の魔法陣は解除した。
『エアコン』の魔法陣を展開したまま接近すれば、またJJがでろんでろんに蕩けてしまう……それは色々と、非常に面倒くさい。
単体ごとに温められるよう、『貼るカイロ』の魔法陣に進化させたのだ。
頭から足先までぽっかぽか〜。
メーさんは地肌に直接貼ると火傷の原因になるので、俺から離れないようにしてもらおう。
あらためて、見上げる。
雪山のように聳えるのは、美しい白銀の竜。
身体に粉雪を纏って白く見えたが、鱗は氷で出来ているのか、所々、きらきらと透き通っている。
「マジ、でけぇ……。氷竜?」
襲ってくる気配はなく、静かに子供達の相手をしてくれている……されるがままの優しい大型犬のようだ。
頭の上の角から徐々に視線を少しずつ下げていき、ある一点に視点が留まる。
何よりの違和感……透き通った体躯の中、左脚の爪に、一本の剣が閉じ込められている。
そうだった……この異世界はこういう世界。
冒険者チートもサクサク進みすぎのイージーモードじゃ、ただのクソゲーだ。
お目当ての方から近寄ってきてくれるのはありがたい……が、同時に得体の知れない気持ち悪さも湧き上がる。
姫を救わせて世界を壊したがるプログラムと冒険者の魂を静かに取り込み世界を発展させたがるプログラム。
美しい世界の中に相反する思惑を感じる不気味さ。
……一つの側面で分類することほど愚かなことはない。
「多角的に見る必要がある、か。ぐほぁ!」
独り言を溢した瞬間に、雪玉がクリティカルヒット。
「ふははははっ! 見たか! 俺の真の実力を‼︎」
JJがドヤ顔……と思しき雪だるま顔でこちらを見ている……っつうか一人雪合戦してんじゃねえよ! 他の奴とも遊べよ!
厨二病が……てめえの背中に熱々の魔法陣展開して、本体を晒してやってもいいんだぞ⁉︎
あぁ?
はぁはぁ、いかん……落ち着け、俺は大人。
ふうーーっと溜息を吐いて、心を整える。
苛立ちはぐぐっと、その場で飲み込む……くそ、後で覚えていろよ。
……あっ、抑えきれてねぇや。




