君の病は。
真っ白な雪原、さらさらと粉雪が舞う中、眼を凝らせばそれの輪郭が見えてくる。
周りの景色と同色の『がいど』はこちらを気にせずに続ける。
『ここではまおうじょうをあけるかぎとまおうをたおすつるぎをさがしだしてください。』
鍵と剣⁉︎ このバカ広い雪山の中を探すのか⁉︎
『どちらもしゅごのもとにふういんされています。』
封印って……ここに来て、急にRPGっぽさ出すなよ……えー面倒くさい‼︎
『どうかひめさまをおすくいください。』
そう言って、深々と頭を下げる。
目の前で決まった台詞を話し終えた雪山脈の『がいど』。
姿は子供くらいの小さな背丈の雪だるまだ。
ただ、俺がイメージする雪だるまとちょっと違う点……胴体からしっかりと細い手足が生えている。
人間の肌色、足には赤い長靴を履いている。
なんだろう……着ぐるみの中の人の移動中を偶然にも目撃してしまったような、気まずさを人に与えるスタイルだな。
雪だるまは下げた頭をがばっと上げた。
役目を終えて自由に話し出せるのはここでも一緒だ。
「俺はジャックフロストのジェイドルジャイロニクスだ! よろしくな、冒険者様」
「……ジャックフロスト? の……じぇじぇ?」
聞き慣れない名前……魔物? 名前も覚えづらい! じぇ……あんだって?
「ジャックフロストは霜の妖精。霜男とも呼ばれるんだよ、ハル様」
「おーチャル。さすが『がいど』、よく知ってるな」
褒めて欲しそうに頭を突き出してくるので撫で撫で。
喜びで尻尾が左右にぐりんぐりんと大きく揺れている。
「おい……じぇ……じぇ……えーと、しもお!」
「俺の名前はジェイドルジャイロニクスだぁぁーー‼︎ その名前で呼ぶなよぉぉーー‼︎」
雪山脈に絶叫が響き渡る。
あぁ、前にも他の人に呼ばれたことあるんだ……。
……ん? 前?
ちらりとメーさんを見上げる。
くりっと身体を捩るのを頭で感じる……あぁ、前に呼んだ人、頭上に発見。
「せめてJJって呼んでくださぁーーい‼︎」
顔からはわからないが、声が半泣きで懇願、足にしがみついてきた。
そんなに嫌なのね、本名かっこいい感じだもんな、分かった分かった。
……ん? 俺の足がなんだか冷たく湿ってる…水?
足を見ると、濡れたのかデニムの色が変わっている。
そして、しも……じゃなくってJJの顔面が歪み始めている‼︎
「溶けてる溶けてる! 魔法陣入ってくるなよ!」
ひょいっと持ち上げ、急ぎ魔法陣から外に出す。
雪だるまの顔は福笑い状態。
胴体からはぽたぽたと水が滴り落ち、肩と膝小僧まで露出しちまってる。
……え? 全部溶けたらどうなるの? すげえ気になる‼︎
「あぁ、俺はもう駄目かもしれない……」
絶望的な声を出すJJの身体にチャルと双子がせっせと雪をつけ、雪だるまを再構築。
「皆、今までありがとう……」
ずっと旅を共にした仲間感出してるけど、まだ会ったばかりじゃねぇ?
勝手に作り上げた走馬灯見てるの?
おい、それどういう思考回路?
……それよりもそろそろ注意しないと、ユルファが長靴の中に雪詰め込み出したぞ?
チャルも顔面いじり出してるし……。
フィングは飽きて、隣に雪像作り出したぞ⁉︎
おっ、お前、器用だな!
あ……うん、どいつもこいつも自由だなぁ、おい!
「俺の……屍を超えてゆけ……どうか、姫様を……」
一人、悲劇に陶酔してるのでとりあえずこいつに病名を宣告する。
「うん、わかった。JJお前は病気だ」
「び、病気⁉︎」
「あぁ、お前は……厨二病だ」
永遠に己を惑わす、不治の病だ。




