メーさん
「ぷ……⁉︎」
頭の上からぷるんと勢いよくメーさんが地面に飛び降りる。
降りた反動で、すんごいぷるんぷるんぷるんしてる‼︎
しかも、メタリックな身体からは汗のような謎の液体が大量に吹き出している……ん? 毛穴どこ?
「ぷ、ぷるぅぷるぅ!」
精神的動揺からか、否定の意味か、いつも以上に身体をぷるんぷるんと激しく左右に震わせる。
すっげえ激しい‼︎
……『違う、違う!』って言いたいのかな?
地面からひょいっと拾い、目線の高さに持ち上げ、前を歩くチャル達には聞こえない声で話を続ける。
猫耳もエルフ耳もすっげえ良く聞こえそうに見えるけど、あいつら全然地獄耳じゃなかったので大丈夫、お試し済み。
「別に、双子には言わないから安心して下さいよ」
「ぷ、ぷる……」
『そうか』と、安堵したのか、汗(?)の激流はぴたりと止む。
「ぷ、ぷるるぅ?」
ん? 『どうして分かったんだ?』って?
「最初に出会った時は、普通に現実世界に迷い込んで来てしまったんだと思ってたんです。でも、道の途中で再会した時、なんかおかしいなって……ただのモブの魔物の行動力ではないと……」
ふと、疑念が湧いたのだ。
「この世界で出会った魔物達は一様に好戦的ではなく、逃避的……身を守る為に逃げ出すよう、動物的本能のプログラムがされている……ように見えます。でもメーさんは近寄ってきたし、俺の話がしっかり通じていた」
他の捕まえた魔物……バジリスクやユニコーンには、こちらの言葉の理解は出来ていなかった。
「たまたま、メタリックなスライムに知能があったのかとも思いましたが、自我を持って行動している……特別な目的があるのでは……そう仮定しました」
疑いを持って視線を向けると、だんだんと疑念が確信に変わっていく。
「あの時、双子がメーさんの身体にめり込んでいったのは、二人を喰おうとしていたのではなく、ぎゅっと抱きしめたかったのではないか? と。その後に二人の喧嘩を回避したのが決定打です」
メーさんはショータさんの転生……そう考えれば辻褄が合うのだ。
「ぷるぅるーー」
『なるほどーー』と感心してるのか、頷くように前後に揺れる。
「最初から記憶はあったんですか?」
「ぷぷぷ……」
身体を左右に捻らせる……『いいや』か。
どこかのタイミングで記憶が蘇ったのだろう……自分が転生していると気づいた時……一体どんな気分だったのだろうか?
困惑からの……喜びか? 悲しみか? はたまた……恐怖?
「で、どうする気だったんですか? 冒険者の妨害をするつもりだったんですか?」
「ぷるるぷ!」
激しく身体を左右に捻る。『ちがうよ』って?
じっとメーさんと向き合う……口はあるけど目は無いから、たぶんこの辺りが目じゃないかな? ってポイントを見つめる。
「俺はこの世界を終わらせに行きますよ? いいんですね」
「……ぷる」
はっきりと告げる俺に、静かに同意するメーさん。
「すみません」
「……ぷぷ」
メーさんを再び頭の上に乗せ、俺達は無言で先を進んだ。
◇◇◇◇
歩いて来た道と雪山脈との境界は面白いくらいにハッキリ分かれている。
緑生い茂る道から一歩踏み出すと純白の雪原、サクサクと踏みしめた雪の音が鳴る。
『エアコン』魔法陣の出力を少し上げると、円陣内に吹く粉雪は侵入してこれない。
「今のところはこれでどうにかなりそうか……」
「ハル様、あれ!」
チャルの声で顔を上げる。
目を凝らすと、吹雪の中にわずかに揺れる影が見えた。
少しずつ進むと……。
『ようこそぼうけんしゃさま。』
そう言って頭を下げる者……こいつが雪山脈の『がいど』か。




