雪山対策
分岐路からどれくらい歩いてきただろう?
いつの間に山から吹いてきた向かい風が、ひやりと冷気を帯びている。
ポケットからスマホを取り出す。
13:28
現実世界では、まだ30分弱しか経過してないんだな……マジかよ、怖っ。
顔を上げると、高い山々が連なる……雪山脈はもう目と鼻の先。
「あーー失敗したな……」
ちょっと反省……グレーのパーカーとデニムにスニーカー、それとリュック。
こんな軽装で雪山行ったら、登山家に張り倒されるわ。
「よし!」
右肩を叩き、コマンドから『どうぐ なべ』を選択。
いろいろと便利な『雷』に『火』と『風』、乾燥は嫌だから『水』も少々加え、おっと『土』も忘れずに!
配分を考えながら、ぽいぽいと放り込む。
ちーーん、と錬成完了!
かぱっと鍋の蓋を開ける。
「ハル様、何の魔法陣作ったの?」
頭にメーさんを乗せたチャルは興味深々だ。
「これは……」
ばっ!
両手掌を上空へ掲げ、半径5mの薄オレンジ色な魔法陣を展開!
ブーーンッ!
柔らかな光と羽衣を纏ったかの様な心地よい暖かさ……そう、これは……
「『エアコン』の魔法陣だ!」
「エア……コン?」
チャルが首を傾げると、ずるりとメーさんが落っこちそうに!
おっと、危ない!
メーさんをキャッチし、撫で撫で。
「この陣の下にいると、なんだかぽかぽかする〜〜」
チャルは何故か体育座りになって、ぬくぬくした顔……子猫娘、ここはコタツではないから丸くなるなよ。
「うおーーすげーー!」
「暖けぇーー!」
双子も嬉しそうにはしゃいでいる。
この二人、よくよく観察してみると、顔はそっくりでも性格はまるっきし似ていない……あ、短気な所はクリソツか。
兄のユルファは楽観的で行動派、思いついたことをすぐ口にしてしまう……お馬鹿さん。
かたや、弟のフィングは兄よりは周りを観察したりやや慎重な面も見えるが、ユルファの言動に対してはいちいち辛口なツッコミを入れる。
結果、どちらかがキレて喧嘩になるのが毎度のパターン……あぁ、いいかげん学習しろよ。
「なぁ、ちょっと聞いていいか?」
二人をさりげなく引き離すように、フィングに声をかける。
ちらっと見ると、ユルファはチャルの肩の上に座って話をしている……だから何でわざわざ喧嘩売りにいくんだよ、お前は‼︎
そこ座るとこじゃねぇから!
チャルがキレる寸前よ!
おーーい、殺気に気づけよ! 鈍感か⁉︎
むぎゅっ!
「ぷるぅぅっ!」
思わず心のツッコミ祭りから手に力が入り、メーさんをプレス!
あ、平たくしちまった‼︎ ごめんごめん。
「何?」
フィングが上目遣いでこちらを見る。
エメラルドグリーンとブラウン、左右どちらもキラキラと綺麗な瞳。
黙っていれば、実はなかなか美形なエルフの少年だ。
母親譲りの美しさか。
「あのさ……お前達の親父さんって、どんな人だった?」
聞いた瞬間、フィングの顔がぎゅっと険しくなる。
「あんな弱いやつ……嫌いだ」
苦々しい物を噛み潰したように、美しい少年は吐き捨てた。




