見えない壁
双子が弾き返されたそれは、前触れもなく、そこにいた。
周りの風景に同化しているように見えるが、異質なそれは確実に道を封鎖する形で広がっている……空間?
大きさでいえば、横8m X 高さ4m程度だろうか?
奥行きは不明。
雪山脈へと通じる道の、左右に林立する木々の間に渡した、透明な壁のような……でも透明ではない。
ここから先に俺達を行かせたくないのか? 罠?
まだ、魔王城からは遠い……いったい何なんだ?
「やぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
掛け声と共にチャルが蹴りかかる!
そういえば武闘家だったな……忘れてた。
マスコットか何かかと思って……っつうか、馬鹿!
いきなり物理攻撃しかけるなよ‼︎
チャルの渾身の右足は、見えない壁に当たった瞬間、ぐにゃりと景色を……空間を歪める。
「うわぁ!」
瞬間、弾き返され、チャルは真後ろに吹っ飛ぶ‼︎
俺はドッジボールの要領でナイスキャッチ‼︎
「ハ、ハル様! ありがとーー!」
「ったく、無策で突っ込むなよ。もう少し考えてから……」
そうチャルに言っている途中で……
「だぁぁぁぁぁぁぁ!」
「たぁぁぁぁぁぁぁ!」
えーーい! この単細胞双子め!
だから何でお前らはすぐ特攻するんだよ⁉︎
魔法使いだろ⁉︎ 近距離攻撃選ぶなよ‼︎
「あーーもう! マジ勘弁してくれよ、お子様達ーー‼︎」
思わず声を張り上げる‼︎
どぷんっ!
チャルの二の舞かと思ったが、ユルファとフィングが今度は弾き返されることなく、謎の壁にめり込んだ‼︎
「⁉︎⁉︎」
ゆっくりと身体が粘性の高い液体に沈み込むよう、飲み込まれていくような……ずぶずぶと……。
もしや……喰われている⁉︎
「ひっ!」
「た、助け……!」
「げっ! まずい‼︎」
俺は咄嗟に乳白色の魔法陣を展開!
前方へ右掌を突き出し、放つ‼︎
びょーーん……べとっ‼︎
「なっ⁉︎」
「うわっ⁉︎」
魔法陣から飛び出した触手の先端が、二人にぺとりと絡みつく!
ぐっと手を握り込めると、バンジージャンプのゴムロープの様に手元へと触手が引き戻る!
どぅるりと、奇妙な壁から二人を引き摺り出すことに成功!
「はぁはぁ……」
「び、びびった……」
「……それはこっちの台詞だよ、全く!」
冷や汗を拭う。
ちなみにこれ、『椅子から一歩も動くことなく物を取るにはどうしたらいいか?』という、超めんどくさがり思想から錬成した、おふざけ『粘着』の魔法陣。
……使い途次第で役に立つもんだな、うん。
カエルが餌の虫を捕食するイメージ。
粘弾性のある触手と、目標を捕捉する非ニュートン性流体の組成。
目標物に接触したら、瞬間的に粘着性のある液体に変化……形態が変わる……ん?
……形が変わる……景色と同化……錯覚?
俺は謎の壁に近づく。
「ハル様! 考えもなく近づいちゃ駄目だ‼︎」
チャル……お前、どの口が言っているんだ?
謎の壁を固定しているであろう、木の外側から後ろをひょいっと覗き見る。
………………
やっぱり。
それは、大した厚みもなく、後方にはただ普通の道が遠くまで伸びていた。
「なぁんだ……」
仕掛けが分かればなんてことはない、拍子抜け。
攻撃型ではないな……こいつ、何が目的?
謎の物体の身体を支えている木に、そっと触れ……着火‼︎
『火』の基礎魔法は魔法陣を展開しなくても出せるまで、徹底的に錬り上げてある。
謎の壁は、びくんと大きく揺れて、ひゅんっと木から身体の一部を引っ込めた‼︎
間違いなく、生きている……魔物だ。
そこから、するすると原型に戻っていき……丸くなる。
スライム? ……しかも……銀の……メタリック⁉︎
「ぷるーー!」
ま、まさか⁉︎ その可愛い鳴き声は……⁉︎




