分岐路
「ハル様! ぼーーっとしてどうしたの?」
チャルの声で、はっと我に帰る。
「もう、先進もうぜ!」
「進もう!」
なんだ、双子も目を覚ましたのか。
「あぁ……なんでもない」
いつの間にか、チャルは俺の肩から降りていたのか……気づかなかった……ん?
………………
「……で、何してんだ、それ?」
俺の目の前には、下から順にユルファ、フィング、チャルが三段重ねなトーテムポール状態になっている。
……しかもなんかチャルが不自然なポーズをキメている……あ、なんかちょっとイラっとする。
「何、遊んでんだよ?」
「えっ? 何? 何のこと? とりあえず、先進もうよ!」
手始めに、土台でプルプル頑張っているユルファの脇をこちょこちょと……。
「ぎゃははははーー!」
「わっ! バカ! ユルファこのやろう‼︎」
「にぎゃぁぁぁ‼︎」
ものの見事に、あっさり獣の塔は崩れ落ちた。
地面に激突しないよう、フィングの襟首を掴み、チャルは小脇に抱える。
ユルファはくすぐりに弱いのか、両手を地面について、ぜーぜーと肩で息をしている。
全く……。
俺はこいつらが隠そうとしていた物を見上げる。
木製の分岐路の立て看板。
矢印が左は『雪山脈』、右は『獣族の村』を指していた。
「ん? これが何だ?」
「ハ、ハル様……行くの迷ってるのかと思って……」
もじもじと上着の前裾を握りながら、チャルが言う。
どうやら、俺が黙り込んだのを、行くか帰るかを悩んでると勘違いしたようだ。
迷い……か。
確かに、このままこの世界にいたら、こいつらに情が移ってしまいそう……いや、もうすでに遅い……こいつらを面白く思っている、自分がいる。
ここで俺が大人しく何もせずに帰れば、この世界は変わらず、こいつらの生活もこのまま存続していく。
……っつうか分岐路からじゃなくても、帰ろうと思えば『どうぐ ちず』で、今すぐに『冒険者の家』から現実のマンションまで戻れるんだけど……まぁ、あえていう必要もない。
俺はそっとチャルの頭を撫でた。
俺よりも少し高い、暖かい体温が手から伝わってくる。
「お前らが……『お姫様助けに行く』って言ったんだろ?」
こくん、と子猫娘が頷く。
こいつらがそれを望むなら、異世界を終わらせたい俺と目的は同じ。
……躊躇うなよ、俺。
ここは綾瀬(仮)さんの異世界。
生命として生きている訳ではない、こいつらはプログラムされた登場人物達。
……そう……自分に言い聞かせる。
「だったら、雪山脈行くに決まってんだろ!」
ユルファとフィングの顔がぱぁっと明るくなった。
「よっしゃー!」
「行くぜー!」
あ、またどっちが一番乗りだとか、喧嘩しそうだな、こいつら。
「しょうがねえ奴らだな。ったく……」
自然と呆れた笑いが俺の口から溢れる。
あぁ……やばいな。
俺はこいつらを……異世界と共に、消すんだよな……?
……いや、余計なことは考えるな。
俺は首を横に振り、頭をリセットする。
前を行く二人? ……二匹? が左の道へと走り出す。
途端……。
ドンッ!
ユルファとフィングは突然、後方の地面へと勢いよく弾き飛ばされた。




