現実主義者
『凪杉陽
年齢:19歳
職業:大学二年生
特徴:現実主義者』
親の顔は知らない。
預けられてた父方の祖母が俺をここまで育ててくれた。
自分の子供の不始末、ばあちゃんはいつも「ごめんね」と申し訳無さそうに言った。
夢見がちな売れない音楽家の父親と恋愛至上主義な母親……若い二人は俺が産まれて早々に、赤子の命を放棄したらしい。
成長するにつれ、それは時に揶揄いの対象だったが、くだらないことを言ってくる相手を黙らせる方法はいくらでもあったから、さして気にすることもなかった。
言われた相手がどう思うか……慮る想像力の無い人間の言葉は、ただの雑音。
心配するような素振りでとやかく言う奴らは、結局のところ誰も助けてはくれないものだ。
俺の人生は俺にしか救えないのだから……。
不満を口にする暇もなく……努力で勝ち取れる物は全て手にしてきた……そう、全て。
運動は身体を鍛えた分だけ、そこそこ伸びた。
特に勉強は簡単、やれば結果が数字として表れる。
創意工夫することの方が、難しいことだと俺は思う。
特待生で高校へも進学したし、大学も推薦で入れた。
そういう意味では、俺はとても恵まれた人間だ。
ずっと団地で二人暮らしだったが、ばあちゃんが病気で亡くなったのを期に、独り暮らしとなった。
団地は名義人が死亡した場合、即退去となる。
容赦なく貧乏人を路頭に放り出すのがこの国の法律。
あの日、具合の悪かったばあちゃんは、布団で伏せっていた。
急いで学校から帰って来た時にはもう冷たくなっており、帰らぬ人となった。
俺が退去し、事故物件となったあの部屋は、クリーニングされ、今頃さらに安い値で公団が貸し出しているのだろう。
もしかしたら、洗面台の鏡からばあちゃんの異世界も広がっていたかもしれないが……今となっては確認しようもない。
……少しだけ見てみたかった、な。
亡くなる最期まで、俺の事ばかり心配してたばあちゃん。
もっとばあちゃん自身の人生を大事にして欲しい、と言いたかったが……言えなかったな。ごめん。
その後、進学の為に借りた賃貸。
どんなボロアパートでも入居には手続きがいる。
保証人欄は、何かと気にかけてくれた高校の先生が書いてくれた……なのに、入居一年ちょっとで取り壊し。
……あぁ、世の中やっぱりなかなか上手くはいかないもんだ。
この世界は不公平で残酷。
それでも人生、何が起こるか分からない……悪いことも、良いことも……。
だから、俺はいつものクソったれみたいな現実に戻って、普通の日常を生きることを望むんだ。




