イレギュラー
俺達は言葉を交わさず、煉瓦の家に戻った。
家の中では、ちびっ子達が起きていて、肩を組み、何やら作戦会議の真っ最中。
「なぁチャル! 俺達も一緒に魔王城行きたいんだけど、お前はどうやってハルについてきたんだ?」
「ふふっ、私が可愛くお願いしたら、ハル様、あっさりオッケーしてくれたんだよーー!」
「何、捏造してんだ、おい。置いてくぞ、こら」
俺にしつこくしがみついて、ぐしゃぐしゃに崩れた顔で泣いて懇願したくせに……。
「ぶにゃ! お、お、おはようハル様。い、いつ帰ってきてたの?」
背後から声をかけられビビったのか、面白いぐらいに全身の毛が逆立ってプルプルしてる。
チラッと見遣ると、エルフ兄弟がざっと腰を落とし、片膝立ち……忠誠のポーズを取る。
「「どうか俺達も連れて行ってください‼︎」」
予想通り……か。
ミーフィさんは……こくんと、首を縦に振る。
はいはい。貴方達がそれを望むのなら……。
「お前らが朝ご飯食べたら……出発するぞ」
パァーッと明るい表情の兄弟。
……ん? おい、なんでチャルはドヤ顔?
お前何もして無いじゃん。
◇◇◇◇
エルフの森の外、雪山脈へと続く道で最期のお別れ。
「ハル様これを持ってって!」
なんだかいろいろガチャゴチャ持たされる!
この押しの強さ、流石はお母ちゃん!
「ユルファ、フィング行ってらっしゃい。母ちゃんはあんた達が大好きだよ」
「母ちゃん……く、苦しいよ」
「ギ、ギブ……」
力込め過ぎて、それ、チョークスリーパー。
落ちるって……。
「「行ってきまーーす!」」
笑顔で手を振る兄弟……だんだんと遠くなり、小さくなるミーフィさん。
気丈に振る舞うお母ちゃんは、きっと一人泣くのだろう……。
会社員ショータさんのスマホの中に、雪山脈の写真もあった。
彼は魔王城の門前まで侵攻していたのだ。
そして気づいたから、その先へは進まなかった。
魔王を倒し、姫を救う……そしたらこの異世界は消滅するのだろう。
愛する家族が暮らす穏やかな世界。
魔王城も魔物もこちらから仕掛けなければ、無害。
だとしたら……どちらを選ぶかは明白。
そして彼はこの世界の登場人物へと変わったのだった。
この世界の食物を摂取して……。
出された食事に手を付けなかった俺を見て、彼女は何を思ったのだろう。
彼女のコマンド。
『ミーフィ
LV.99 魔女』
昨日、煉瓦の家へ向かう途中、出会ったエルフ達も皆、LV.99だった。
ユルファとフィングはLV.60 の、まだ子供。
あくまで俺の仮説だが……
LV.は強さのレベルを表してるのではなく、この世界に生まれてからの経過を表すのではないか、と。
綾瀬(仮)さんが亡くなったのは約四年前、現実の一年はこの世界では約60年経過するので、この異世界は創世から単純計算で約240年。
エルフの彼女と冒険初心者は創世からの役割なのでLV.240ぐらいだろうか、99以上は数値化をしていないだけ……そう考えると合点がいく。
チャルは獣族だから寿命があり、代替わり……おそらく今、3代目の『がいど』ってところか?
この世界で240年……いつまで経っても誰も姫を助けに来ない……異世界にテコ入れがあったのかは知らない。
ただ、チャルとユルファとフィング……子供達がイレギュラーなのは確かだ。




