JR綾瀬駅徒歩5分の1R
社長にあっという間に連れさられ、内覧に来たが……。
予想外だった。
JR常磐線綾瀬駅から徒歩5分、綾瀬1丁目。
1Rで8畳。フロ、トイレ別。
築年数22年。
鉄筋コンクリートの単身者向けマンションの4階。
………………
なかなか綺麗だぞ⁉︎
もっとホラー感漂うオンボロ木造アパート想像してたんだが……。
これで月1.8万円⁉︎
相場なら9〜10万円するだろ⁉︎
ま、益々怪しい……。
「気に入ったか?」
嬉しい裏切りに喜ぶ俺を見て、またしてもニヤニヤしている。
「じゃ、契約を……」
「いや、だから、まだ何も説明受けてませんって!」
「ちっ、細けぇな」
………………
客に向かって舌打ちしたぞ、この社長。
「告知事項。契約前に説明するやつ。心理的瑕疵物件……いわゆる事故物件だな」
何をもって『事故物件』とする定義か、正確には俺には分からないけど……住むのに心理的な抵抗が生じる恐れがある物件……ってことだな。
……前の居住者が死んでたら、そりゃあ、気持ちのいいもんではない。
社長がフローリングの床をすっと指差す。
「4年前、ここで死んでた。突然死」
特に汚れもシミも何も無い床。
元はベッドか布団でもあったのか?
「42歳、男。社畜で過労死だったみたいだな。ほれ、CMやってる有名なセキュリティソフト開発の会社」
あぁ……あれか、社長がCMに出て『安全です!』って宣伝してるのが胡散臭くて、かえって不安になる、あの会社か。
ブラック企業……俺も就活の時は気をつけよう。
「死因は心臓発作。特に怪しい点もなかった」
怪しいという言葉がとても似合う人が続けて話す。
「で……その後、三人、この部屋を貸したが……全員、行方不明だ」
「へ?」
さぁーーっと、全身の血の気が引くのを感じる。
は? 行方不明って……。
「じゃ、契約を……」
「いやいやいや‼︎ この流れで何、しれっと契約に持ち込んでるんすかーーっ⁉︎」
俺の大音量のツッコミが部屋の中に響いたのだった。