倉庫内軽作業
キィッ……ガチャッ!
「おう、着いたぞ」
車は滑らかに駐車場へ進入し、白線の枠内ピタリと停車した。
バック一発で華麗に駐車を決めるなんて……俺の目の前のドリンクホルダー内でラヴカちゃん(仮)もパチパチと拍手をしている。
それにしても……高精度なバッグモニターが付いているのに、後ろ振り返りながらのドライビングテクニックだなんて……過去、この助手席に座った女性達の心をその手腕でバタバタと落としてきたんだろう?
全く罪な野郎だぜ。
……ん?
モテない男の僻みからくる妄想だって?
………………
しょうがないじゃーーん!
俺、免許すら持ってねぇもーーん!
「おい、どうしたハル? 告白する前に負け確定で撃沈した男みたいな顔して……さっさと降りろ」
「どんな複雑な表情ですか、それ! まったくもう……」
トンッ! ズキッ!
高級車シートの座り心地に甘んじていたからか、地面に降り立った瞬間、肋骨周囲に痛みが走る。
あぁ……俺もさっき、皆と一緒に病院担いでってもらえば良かったかな? 痛ててて。
腹周りを摩りながら、周囲を見回した俺の目に、バス停の標識柱と色褪せたベンチが映る。
時刻表の辺りに目を凝らすと……どうやら『花畑』は足立区の地名のようだ。
『はなはた』と読むと知り、何だか少しほっとした。
『ちょっとそこまで、天国のお花畑へ……レッツドライブ!』とかって、この社長なら真顔で言い出しかねない。
現実に紛れて、常識外のことが何食わぬ顔で混じっていることを、ここ最近、身をもって学んでるんでね。
俺の左肩に乗り、なんだかご機嫌そうな魔法少女人形ちゃんにちらりと視線を動かしてから、眼前の建物を見上げる。
「ここは……倉庫?」
全体的に白い塗装で統一された……何の変哲もない、普通の倉庫だな。
看板は見当たらないけど、広い駐車場を設けているし、綺麗な外観から物流倉庫というよりは、何かのお店のようにも見える。
「ここはうちが業務提携している会社だ。倉庫であり、業者や一般のお客様も大歓迎な……」
言いながら、社長が重そうな鉄の扉を左右に押し開けた。
ガシャン!
「リサイクルショップだ」
「⁉︎」
高い天井の倉庫内には、所狭しとズラリ並ぶ洗面台! 圧巻だなぁ……。
そして奥の方には、さっき102号室でグルグル巻きにされていたのと同じ、黒いビニールで覆われた『四角』が大量に積みあげられているが……間違いなく、あれは鏡!
………………
ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
そんな乱雑に……このバチ当たり‼︎
それにこんだけある洗面台って……全部、アレがアレするとアレしちゃうヤツっすよね⁇
ひやぁっと、血液が全身を巡るたびに細胞が片っ端から凍りついていくような感覚に陥る。
え?
それよりさっき、社長なんて言った? リサイクル⁉︎
……い、意味が分からない。
「いいかハル。商売っていうのは、需要があるから成り立つんだ。あ、鏡を反射させちまいそうな光りもんはしまっておけよ?」
「しゃ、社長? ……ちょ、ちょっと!」
スタスタと中へ勝手に進む彼の後ろを慌ててついていく。
「ふ、不法侵入とかにはなりませんよね?」
「ははっ。大丈夫だって、気にすんな」
「っつうか、ここの従業員の方にまだ一人もお会いしていないんですけど⁇」
ブロロロロッ……ピーピーピーピーッ!
その時、トラックがバックする音が駐車場から聞こえてきた。
「お、帰ってきたか」
「?」
ガチャン! バタバタバタバタッ……
俺達の位置からでは見えないが、なにやら三人の男性の声が聞こえる。
「よし、降ろすぞ! いちにのさんっ!」
「うぃーーす!」
「このまま、あっちに運んでくれ」
「うぃーーす!」
ガラガラガラガラーーッ!
トラックから荷物を降ろしたのだろう、台車の車輪音が響く。
搬入作業を手際よくこなし終え、男性が入り口から倉庫内に向かって声を掛けてきた。
「遍社長ーー! 来てるんでしょーー?」
「⁉︎」
ガバッ!
この中だけじゃなく近隣住宅まで聞こえ渡りそうな大音量に思わず俺達は耳を塞いだ。
「おう! そんなでけえ声出さなくても聞こえてるぞ!」
「すんませーーん!」
「「ういーーす!」」
声の方向から俺達の位置を特定したのか、洗面台の後ろから三人がひょこっと顔を覗かせる。
「あ! お、お久しぶりです!」
「おや、君は綾瀬の時の……」
それが知っている顔だったことに驚いた。
「M's 引っ越し社のお兄さんズ……え? ここで何してるんです?」
「何って……引っ越し依頼が無い時は、ここの運搬作業も請け負っているんだよ!」
「えぇーーっ⁉︎」
帽子にリーダーバッジを付けたマッチョお兄さんが俺の質問に元気いっぱい答えてくれた。
「そうなんですね……ん?」
ふと、冷静になって俺らを取り囲むように並ぶ洗面台達を見回す。
「……あれ? もしかしなくても、倉庫内作業用員で呼ばれたの、俺?」




