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オススメ事故物件、今ならサービスで異世界ワープお付けします。  作者: 枝久
3ー3

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開通!

 黒水のすっかり消え去った池の底は、一面ひび割れた灰色の大地が広がっていた。

そこには水中に長らく沈んでいた珍しいモノが出現……するわけもなし、なぜならここは異世界の黒池。

っつうか一瞬で干上がるとか何? 

ザ・異世界仰天ニュース⁉︎


「うわっ、しかも思ったより深ぇ……」


 池の端から身を乗り出し、下をキョロキョロと見渡す。

底までの深さは、俺一人がすっぽり隠れちまう2mくらいか? 

で、広さは……うちの大学の講堂くらいかな? なかなかの面積だったんだな。

そこに蓄えてあった膨大なエネルギー……一体、何処へ消えた?


 内心焦りながら、ぐいっと身体を前に進めて覗き込み、目を凝らすと……俺の真下の(えぐ)れた土壁の隙間になにやら黒い塊⁉︎


「あっ! っと……えっ⁉︎ シュウジさん⁉︎」


 残された墨汁エネルギー溜まりかと一瞬喜んだが、見間違い……それは先程飛び込んだ彼!

パズルのピースのように、内壁の窪みに丸まった姿でピタリと収まっていた……が、その身体はぴくりとも動かない。

まさか……渦の遠心力でやられたのか⁉︎


「お、おい!」

「ダルメシアンくん、今行くぞ!」


 ダッ! ザザーーッ!


 シマウマくんとパンダさんが躊躇(ちゅうちょ)することなく同時に空池へと飛び降り、斜面を下って彼に駆け寄る。

すると、すぐに明るい声が返ってきた。


「大丈夫! 彼は無事だよ!」

「俺らも今そっちに戻る!」

「「「良かったぁ……」」」


 二人の言葉で俺達は揃って安堵の声を上げた。


 ヒョイ!


 パンダさんがシュウジさんをそっと拾い上げ、シマウマくんの上に優しく乗せる。

ん? こっから見ると、なんだか二人が同化してシマウマくんの背中……不恰好なもっさりタテガミに見えるな……うん、まぁどうでもいいか。


 気を取り直して、俺は彼らに頭上から声を掛ける。


「パンダさぁーーん! そこに可愛い少女趣味的なコンパクト、落ちてませんかーー?」

「えっ? ……不動産屋くんて、そっち系? ちょ、ちょっと待って探すから!」

「……」


 そっち系ってのがどっち系なのかよくわかりませんが、俺のお願いを叶えようと、パンダさんは四つ這いになって真剣に周囲を堀り堀り探してくれる。

派手なデザインとカラーリングなのに、上から見ただけじゃ分からなかったコンパクト……もしかしたら、本体がこの広い土のどこかに埋まってしまっているかもしれない。


 ………………


 それは……マジでヤバい。


 どうする? もしも……見つからなかったら?


 ………………


 ぞぞっ!


 最悪な想像で、俺の全身がぶわっと一気に総毛立つ。

どうして、良いことよりも悪いことへの想像ってのは簡単に次々浮かび上がってくるのだろう?


「私も加勢に……」


 白虎さんがそう言いかけたところで、またさっきと同じテンションの返事がパンダさんから返ってきた。


「おっ! 不動産屋くん、あったぞーー‼︎」

「んまぁ! パンダさぁーーん‼︎ 素敵ですーー‼︎」


 俺が池に落としたショッキングピンクなコンパクトを彼がモフモフの手で掴み、高く持ち上げた。


 びんっ!


「ん?」


 プラグが土に突き刺さっていたのだろうか、薄ピンク色の中継機器とコンパクトが一直線でピンと張り詰め、パンダさんの身体はガクッと揺れた。


 ドォンッ‼︎


 その時、この異世界に来て最大級な地響き!


 ピシャァァァァァァァァァァァァンッ!


 間髪入れずに、天空から一発の雷が降り落ちた。

渇いた大地に立って笑顔を浮かべていたパンダさんの真上に……。


 ……………………


「え?」


 俺達の目の前で、スローモーションのようにパンダさんがゆっくりと地面へと倒れ込んだ。


 どさっ……


 ………………


「パンダさぁぁぁーーん⁉︎」

「いやぁぁぁぁぁぁっ‼︎」


 彼の手から離れたコンパクトも地面と衝突し、カツンと安物のプラスチック音を鳴らす。

すると、軽い蓋はいとも簡単に開いた。


 パカッ! 


 タッタリラーーンッ!


「「「「⁉︎」」」」


 悲痛な場面とは見事にマッチしない陽気な音楽が突如鳴る。


「はい! こちら不動産会社『ワープルーム』、箱庭(はこば)がお受け致します!」

「「「「⁉︎」」」」


 この位置からは全く見えないが……小さなコンパクトミラーの鏡面内で彼女がアイドル級の笑顔でビデオ通話しているのだろう。


「ハルさぁん! 無事に開通出来ましたね! えらいですよぉ〜〜!」


 ………………


 お、温度差が……半端ねぇ……って言ってる場合じゃねえな!

俺はコンパクトに向かって全力で叫ぶ!


「セバメさん、大変なんだ! この異世界エネルギーが何処かいっちまった! このままじゃこの空間を保てない! それにパンダさんが雷に……」

「あぁそれなら大丈夫。商談成立するまで異世界エネルギーはこちらでちゃんとお預かりしてますよ。雷は……あら、プラグ接続後は30秒触らないようにって、遍から聞いてませんでした?」

「……え?」


 ………………


 俺は、パンダさんの隣で転がる支給品達にちらりと目を遣る。

あぁ……もしかしなくても、その中継機器の中に池一杯分のたぷたぷエネルギーを吸い込んだ……ってことでよろしいでしょうか?


 しかもこれらの使い方……まるで聞いてませんよ⁉︎


 ………………


 本当にもう! 

前もって色々と事細かに教えておいて頂けると非常に助かるのですがねぇ、社長ーーっ‼︎


 俺は心の中で絶叫したのだった。

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