墓参り
そっと、俺は墓前に花を供えた。
一緒に摘んできた花で、チャルは器用に花冠を作り、墓岩にかける。
手を合わせる俺を見て、慌ててチャルも隣で真似て、手を合わす。
あの部屋を借りた三人とも、この世界で生涯を閉じた。
ふと、社長に言われたことを思い出す。
『うちの店を選ぶ客は①貧乏人か ②メンヘラか ③修行クソ野郎……』
恐らくだけど、皆、家賃を安く抑えたい考えの俺と同じような境遇……同志達だったのではないか?
……異世界へ引っ越したい程、現実世界は超クソだったのかな。
俺はチャルに尋ねる。
「この村の長老は?」
「長老って……何?」
「あ、えっと、年齢が上で……爺さんとか婆さんとか……一番古い物事を覚えている、とか?」
「⁇⁇」
向こうで畑を耕す獣人達を見遣る……見た目だけでは、誰が年長者かは分からないな。
皆、穏やかに暮らしているようだ。
近くで虫取りしている熊耳の青年がいたので、近寄って、右肩を叩く。
ブンッ!
『マルラス
LV.50 戦士』
チャルより青年の方がレベルが上、か。
……ただのモブが、LV.50?
「こんちわ! 何か用ですか?」
「あぁごめん、何でもない」
足止めしたことを詫びる。
村長はいない……皆、平等。
時間軸の概念も無いのかもしれない……いや、必要がないのか?
「ハル様? さっきからどうしたの? ぶつぶつ言って」
不思議そうな顔でチャルが俺を見る。
「あぁ、何でもない、気にするな」
「うん、わかった! 気にしなーーい!」
さらっと笑顔で返される。
あまりに、簡単な答えで、逆になんだか嬉しくなった。
一旦、考えるのは止めよう、キリがない。
異世界で自分の常識を押し付けること自体、非常識だからな。
ただ、ちょっと知りたかっただけ……ここに来た冒険者達が、最期まで幸せに暮らしたかどうかを。
村を見回す。
「このほのぼのスローライフが何よりの証拠かな?」
……この時はそう思っていたのだった。




