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オススメ事故物件、今ならサービスで異世界ワープお付けします。  作者: 枝久
3ー3

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虫が良すぎやしませんか?

 ぞわっ……


 全身の血液が凍りつく感覚……それは本能。

咄嗟(とっさ)に身を(ひるがえ)し、この場を離れるよう全力で駆け出す!


 だっ!


 だが、俺の逃走初速と漆黒のオルトロス……どちらかが速いかなんて明らかで……。


「「ガウアァァァーーッ‼︎」」

「くっ!」


 ガブッ! ぶちっ‼︎


「ふ、不動産屋くんっ‼︎」

「きゃぁぁぁぁぁぁーー‼︎」


 だらしなく(よだれ)を撒き散らし開かれた大口に、後方へ残された俺の足は取られ……そして無惨に剥ぎ取られた。


 ずるっ! すぽんっ‼︎


「あっぶねぇぇぇっ!」


  ひぃぃぃっ! 間一髪!

俺の左足のスニーカーが犠牲となり、その鋭い牙によってボロ靴は一瞬でズタズタにされた。

そして獣の口から、今度は悲鳴に似た咆哮が上がる。


「ギャァァァァァーーッ‼︎ オェェェェェーーッ‼︎」


 ………………


 あ……なんか、ごめん。

買ってからこの靴、一度も洗ってないや。臭かった?

ある意味凶器……ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ!


「不動産屋くん! 上だ‼︎」

「パンダさん⁉︎」


 声に振り向くと、両手を重ねて体勢を低くし構えたポーズの白黒な彼。

察した俺は一気にそちらへと駆け出し、モフモフの掌の上に躊躇(ちゅうちょ)なく片足を掛ける!


「「はっ‼︎」」


 ぐっ! 

 

 ひゅーーん‼︎ すたんっ‼︎

 

 サーカス団員さん並みに息ぴったり⁉︎

パンダさんが大岩の頂上目掛けて高く放り投げてくれ、俺はなんとか着地……が、無事とは言い難えな、痛てててて。

でも、もう肋骨の痛みとかでメソメソしてられん!

こちとら命が掛かってる‼︎


「坊やーー! 大丈夫⁉︎」

「な、なんとか……白虎さんも彼を頼んます! ダルメシアンくんは理性を失ってる、皆さんも気をつけて‼︎」


 さっき倒した黒鳥の墨だまりに手を着きながら、下を覗き込み大声を返す。


 今の段階で、排除ターゲットはあくまで俺……酔っ払いくんのことは眼中に無いはず。

そもそも時間をかければ、いずれこの世界に取り込める……緊急にエネルギーを欲しない限り、焦って彼を狙う必要は無い。


 さらに身を乗り出して下を覗くと、オルトロスは唸りながら岩の周囲をグルグルと回っている。

身体の基本形態は犬だから、垂直に近いこの岩の側面を駆け上がるのはそう簡単じゃないはず。

少しは対策練る時間稼ぎになる……かな?


「ふぅぅぅぅーーっ……」


 身体の中の空気を出来るだけ空っぽにするように外へ吐き出し、深く深く深呼吸。

……冷静になれ。考えろ。


 敵の動向を注視しつつ、頭の中を整理する。


 Q.さて、どうする?

①逃げる。

②闘う。

③シマエナガさんを生け贄に差し出す。

④交渉する。


「……」


 瞬間的にこの四択が浮かんだが……おいおい……③は……流石に人でなしだな、俺。


 自分の脳味噌でありながら、反吐(へど)が出る。

でも、『考えが浮かぶ』ということは心のどこかでそう考えている自分が確実にいるってことだ。

時折、心の内で己の醜い本質が顔を覗かせ……そいつと対面する度に生まれるどうしようもない嫌悪感。


「「グァォォォォォッ‼︎」」


 ガリガリガリガリガリガリッ……


 下から、苛立ちを含んだ鳴き声と何かを引っ掻く音が鳴り響く。

 

 黒色の化け物と化した彼より、異世界での経験値という点で上手(うわて)な俺の方が、冷静さでは勝るか。

『敵を排除する』という思考に囚われた彼の感情的な行動、己の『それ』が何を意味するかまで至っていない短絡的な愚かしさ。


 ふっと、さっきのシマエナガさんの悲しそうな顔が脳裏に浮かんだ。


「無責任……甘いなぁ……」


 そういう考えは……はっきり言って好きじゃない。


 バサササササッ!


「不動産屋さん!」

「‼︎」


 突如、数秒前に回想した相手が羽音と共に目の前へと降り立った。

二つの小粒な黒い瞳からポロポロと雀の涙ならぬシマエナガの涙を溢しながら、愛らしい口を開く。


「シュウジ……ダルメシアンくんを助けてください。お願いします……お願いします……」

「……」


 震えるか細い声に、俺は冷やかな視線と声を返す。


「なんで?」

「えっ……?」


 俺の返答が予想外だったのか、驚きの声と共に彼女の涙はピタリと止んだ。


「……ちょっと虫が良すぎやしませんか? 今まで素性を隠して、行方不明なパンダさん達三人と同じように何も知らないように振る舞って……俺は二人の事情も関係性も何もかんも分からないのに、困ったら『助けてくれ』だなんて……」

「そ、それは……」


 青ざめてカタカタと震える彼女に向けて俺はさらに言葉を放った。


「ますば、自己紹介してください!」

「……はい?」

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