無意識なる元凶
俺の言葉で、異世界の被害者三名が戸惑いの声を上げる。
「な……え? あれ? 創造主って……岩山に住んでるんじゃ⁉︎」
「ちょ、ちょっと! 一体、どういうことよ⁉︎」
「え……な、なんで……」
同じ動物の姿にされた仲間だと思っていた相手がまさか元凶だとは……普通、思わないよな。
パンダさん、白虎さん、シマウマくん……彼らの言葉を聞いた二人はぐっと眉間に皺を寄せ、険しい表情を浮かべた。
少しだけ違うのは、彼女は困惑を……彼は俺への敵意をその瞳に孕んでいる。
「俺としては……途中から疑っていたんだ。創造主が五人の内の誰かだと……」
俺の言葉の直後、黒影達の動きに反応があった。
偶然かと思ったが……二度三度重なると、それは必然を疑う。
皆の様子を注視していて……ふと、シマエナガさんとダルメシアンくんにおかしな点を見つけた。
「創造主は一人だけだと思っていた……だけど、怪しいと疑念を抱いたのは、お二人に対して。どちらか、はたまた両者か……でも、もう一つ気づいたんだ。シマエナガさんもダルメシアンくんも……お互いが同じこの世界にいること、知らなかったんでしょ?」
「「「「「⁉︎」」」」」
全員が俺の方を同時に向く。
皆一様に驚きでクリクリと目を丸くしている。
「えっと……どういうことだ?」
「パンダさん、俺もまだまだこの異世界に超詳しいわけじゃないんで、これは推測なんですが……このお二人は何かしらの理由で現実世界で命を落とした。身体を失った魂は鏡の裏に異世界を作る……それはとても馴染みのある場所で……二人にとって共通の場所、同じ鏡……」
俺はちらりと白虎さんの上で眠る彼を見遣る。
着ているスウェット上下がチャコールグレーからさらに黒色寄りになった気がする。
………………
ん?
ちょっと待って。
俺の髪の毛……もしかして白髪になってない?
……現実帰ったら、白髪染めしないと……請求したら経費で落ちるかな?
「ね、ねぇ……何泣きそうな顔してんのよ。そんでそんで?」
自分の方を向いた俺がしょぼくれた顔をしていることを心配しつつ、白虎さんが先を促す。
「あ、えっと、ここは時の流れが行ったり来たりな不安定で……俺の髪は黒色が抜けていき、彼の衣服は色濃くなった……法則性が一貫していない……でもそれは相反する力が作用しているのではないか、と。二人分の魂エネルギーの異世界だとしたら納得できる。そして、無意識的に黒影達を操っていたのは……たぶん、ダルメシアンくん……だよね?」
すると彼は俺の質問に答えず、ギロリと鋭い視線を返してきた。
だが言葉は発しない。
俺から奪い、口に咥えたモノを離す気は無いようだ。
俺は言葉を続ける。
「その尻尾……たしか本物のダルメシアンってさぁ、尻尾は白かったと思うんだけど、あんたは真っ黒だ。まるで墨を自在に扱う筆のよう……かたやシマエナガさんの足は本物とは異なって白い……彼女がもしこの異世界で操るなら白色のエネルギー体か何か……かな? 不自然さを……間違いを探して……確信した。だから、あえて煽った。お二人が動き出すことを見越して……そして動いた」
地面に降りているシマエナガさんにちらりと視線を動かすと、彼女は泣きそうな顔で彼を見つめていた。
「ついさっきだろうけど、大事なお互いの存在を認識した……だから、この異世界に影響を及ぼそうとする俺のアイテムを、二人とも奪おうとしたんだ……」
そして、もう一つ気づいた……自分のこと。
俺は……根本的に他人を信用していないということを……。
誰のことも心では信じられていないから、疑いの目で彼らを見ていた……だから気づけたんだ。
それは良くも悪くも……ほんの少しだけ、自分に対しての虚しさを感じた。
ざっ! たたっ、たんっ‼︎
ダルメシアンくんは突如、駆け出し、飛び上がり、転がるスポイトを前脚で踏んづけた‼︎
ぎゅむっ!
「あっ! しまった、忘れてたーーっ‼︎」
ぶちゅっ!
封印したスポイトから押し出された黒ゴンは……あれ? なんか半分だけ中身が出た。
びちびちっ……びちびちっ……
………………
召喚失敗された残念系ランプの精じゃあるまいし……身体を跳ねさせる動きは釣り上げられた魚のよう、身動き取れずにジタバタしている。
「っ‼︎」
黒影で再度、俺達を襲わせようとした目論見ハズレ。
彼が苦々しい顔をして、歯を食いしばり……。
バキッ!
無惨にも砕ける音が彼の口から響き渡った!




