言い伝え
風が吹き、大樹からざぁっと木の葉が舞い散る。
「はっ! とぉぅ! やぁ!」
岩に腰掛け頬杖つきながら、俺はぼんやりと目の前の光景を眺める。……はとや?
猫耳幼女のチャルが、意外とキレのある動きで舞い散る葉を全て捉えて見せた。
しゅたっ!
「見たか! ハル様‼︎」
くるりとニャンコが回って、ピタリと綺麗に着地。
得意げに俺を振り返るチャル。
『連れてって!』と、せがんできたのをガン無視して進もうとしたのだが……左足にがっちりしがみつき離れなかった。
子供は嫌いだが、流石にこのちびっ子猫娘を蹴り剥がすのは、人間としての良心が痛む……渋々だが話を聞く羽目になったのだ。
……あの社長だったら、容赦なくしばいてただろうな、うん。
「お前の気持ちは分かったが、遊びに行くんじゃないから、連れて行けない」
そう言って、チャルの肩をぽんっと叩いた。
ブンッ!
おっ! びっくりした!
ステータス画面、チャルのも開くのか⁉︎
『チャル
LV.41 武闘家』
……ただのガイドじゃないのか⁉︎
「LV.41か……そこそこ強いがまだ無理だ、連れて行けない。」
体のいい言い訳を告げる。
「えーー⁉︎ そんなぁ〜っ‼︎」
通りすがりの釣り竿を持った狼男に声をかける。
「おい、こいつは大事な村人だろ? しっかり見守ってやってくれよ」
半泣きのチャルを押し付けると、狼男はチャルの頭をなでなで。
「冒険者様を困らせちゃいかんよ」
「私は魔王を倒して、姫を救いたいんだ!」
さっきも言ってたな……姫?
「『姫』って何だ?」
会社員さんの日記には無かったな……。
「古い言い伝えです……『魔王城には姫が荊棘の檻に囚えられている』と」
……もしかして、この異世界は少しずつ何かが変化しているのか?
「そういえば、俺以外にも過去、冒険者が三人来たと思うんだが、何か知ってるか?」
「たしか、だいぶ前に一人……エルフの森に墓があるはずかと……」
「っ‼︎」
……予想はしてたけど、実際に耳にすると結構ショックだな。
会社員さんはもう亡くなっている……。
当然、その前のお二人も……。
「それ以前の方は……あぁあなたが座っている、そこが墓石です」
「⁉︎」
狼男が指差したのは俺が座っていた岩‼︎
うぉーーい! 早く言ってくれよーー‼︎
慌てて飛び降り、正座をし、手を合わせたのだった。
くわばら、くわばらーー‼︎




