プログラム
黒影の行動を見ていて、気づいた。
更新したところで、やはりこいつらには『人工知能』はない、だから……『防御』の概念もない……と。
『標的を捕らえて、黒池に沈めろ』……そんでもって、さっき追加されたのは『邪魔する者は排除しろ』かな?
……それが奴らのプログラム。
白虎さんの攻撃、黒ゴンはそのまま喰らっていた。
そして、俺が後ろから襲い掛かっても、避ける素振りはみられなかった。
……これが、マサさんやウルエさんの異世界の敵だったら、背中を狙ってもくるっと反転、即座に反撃&捕獲されて俺は真っ黒な水中へぶくぶくと沈められていただろう……ひいっ! 怖っ‼︎
これが……異世界賃貸『契約』してるか、していないかの違い?
………………
あぁ、考えるだけ無駄だ。止め止め。
一瞬、ポンッと頭に浮かんだ社長とセバメさんの顔を、首を振って追い払った。
ザシュッ!
俺は渾身の力を込め握り締めていた『それ』の先端を黒影の背に突き刺したのと同時に、一番長く地面を這っていた蛇髪を、上から思いっきり踏みつけてやった!
ずだんっ! ぱちーーんっ!
薄汚れた俺のスニーカーの下で、千切れた蛇の胴体は水風船のように弾け、黒い液体へと変わった。
太い線のような墨溜まり、長く伸びたその先を見遣ると……それは黒池へと続いていた。
「うっわ、あぶねぇ……」
今、踏みつけたのは……給水ホースの役目を担っていた蛇だな。
黒人間Bから黒ゴンに更新した際、蛇の頭身がエネルギー墨汁を吸い上げ、パワーアップする設定に変更されたんだな。
「ほらよ!」
俺は両手をぱっと離す。
すると、俺の武器は自動的に発動!
黒ゴンの身体はビクッと大きく反り返った‼︎
ちゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ……すぽんっ!
黒ゴンの身体が見る見る間に小さくなり、それとは対照的に突き刺したモノの中へと黒液はぐんぐん吸い込まれ、溜まっていく!
そして中身がいっぱいになったところで、音を立てながら外れた。
……そう、俺が地面に描いて具現化したのは……大きめな『スポイト』だ。
書道の授業で、硯に出し過ぎた墨液を吸い取るのに使用した、半透明プラスチック製なアレだ。
黒ゴンを弱体化させるにはどうするのが最善かと考え、思い付き……案外うまくいった。
ヤツがコピーしてた俺の身体部分は全てスポイトの中へと吸い込まれ、残された頭の蛇部分は地面へと落下する。
ぼとぼとぼとぼとぼとーーっ!
落ちた衝撃で、蛇が地面に散らばった。
本体から切り離されピクピクは動いているが、どこかへと移動する様子は見られなかった。
さて……このスポイトは下手に触らずにしておくのが無難だな。
時間の経過で、他の黒影アニマル同様、いずれこれも消滅するはず……。
俺はちらっと岩陰の黒池に視線を向ける。
ここからでは黒い水面が見えない……だいぶエネルギーを消費したことで水位が下がったか?
………………
まずいな。
あまりやりすぎると、この異世界の安定が崩れる。
そしたら……元の世界に帰れなくなっちまうか⁉︎
あぁ、気をつけよう。
「メェ……」
「グゥゥンッ……」
二人の切なげな鳴き声ではっと我に帰り、慌ててパンダさんと白虎さんの脚に巻き付いた蛇を払う。
酔っ払いくんは……あぁ、解放された白虎さんがモフモフの腕の中で抱えているわ。
もう、この異世界にいる間はずっと寝ててくれ!
ダダダダダダダダダダダッ‼︎
「ワンッ!」
「ジュルル……」
「ギャンギャン!」
駆け寄ってきた三人を見てから、視線を彼らの向こう側、遠くへと向ける。
……そういや創造主がいる岩山……って言ってたけど、あそこじゃ……ここからは、やっぱりちょっと遠いよな?
………………
……そしてまた一つ、疑問が浮かぶ。
創造主は何処からか俺達のことを見ているのか?




