似合わない髪型
かくん!
「気をつけ」姿勢の黒人間Bが斜め45度にお辞儀をした。
ぷくぷくぷくぷく……ぶわあーーっ!
その傾けた頭から突如、細かい気泡がぶくぶくと沸き立ち……次の瞬間、髪の毛が四方八方に向かって、ぐんっと一気に伸びる‼︎
髪の一本一本に意思が宿ってるかのように、それらがうねうねと動き絡み合い、自動的に無数の三つ編みを仕上げていく。
それぞれの編み上がった髪束の先は、丸く膨れたチューリップのような形……それが気色悪く蠢く。
ぞわぞわぞわぞわぞわ……しゃーーっ!
花弁が開くように、髪先の『それ』は口を開けた。
あぁ……髪の毛が蛇……まるで、魔物ゴーゴンのようだ。
あれはギリシア神話に登場するんだっけ?
……正確さを追求するなら、背中に翼も追加メニューだな。
………………
っつうかさぁ、一つ文句言ってもいい?
黒人間Bの体型、あれ、俺じゃん⁉︎
グレー髪もどうかと思ったが……ロン毛な俺……超気持ち悪うぅぅぅぅっ‼︎
似合わなすぎにも程がある‼︎
目玉が無いから、石化を仕掛けてくることは今のところ無さそうだが……アップデートした影野郎の動き、どう出る?
あれはもう黒人間Bとすら呼びたくない、黒ゴーゴン……略して黒ゴンだ。
……もし、体型だけじゃなく身体能力も模倣されているとしたら、ちょっとまずいな。
ざりっ……
地面に手を付き、四つ這いになった黒ゴンは、もはや魔獣に区分変更したいくらいな出立。
様子を伺うように首をぐにゃりと捻る。ひぃぃっ!
……相手の出方を見るなんて芸当……なにレベルアップしてくれちゃってんの⁉︎
だいぶ困るんだけどーー!
「メ、メェッ!」
『キ、キモッ!』って言ったように聞こえるパンダさんの鳴き声には、激しく同意!
彼は間合いを取るように、酔っ払いくんを背に乗せた白虎さんを庇いながら、ざっと数歩退がる!
「気をつけて! そいつ速いよ!」
俺の能力を反映してるんなら、黒ゴンは脚力お化けよ! あら、手前味噌でごめんあそばせ!
俺の声と同時に、黒い獣が襲いかかる!
ひゅん!
俺の悪い予感的中! 標的は……パンダさん‼︎
「メェ⁉︎」
シュバババババババッ‼︎
黒影の頭から無数に伸びくる蛇を、モフモフの手刀で躱すパンダさん……使えるのが前脚だけでは手が足らない⁉︎ 防戦一方!
先程まで、パンダさん達は黒影軍団の『対象』ではなかった……はず。
だが、異世界プログラムのアップデートで『排除するべきモノ』として上書きされたのだ。
しかし……自分の身体がコピペされているってのは、胸糞悪いぞ!
それが、味方を攻撃してくるってんなら、尚更だ。
ぎりっ!
俺は手の中のモノを握り締めて、声を張る!
「ったく何でもかんでも、パクんの止めろよなぁ! 全く、ここの創造主ヤローはプライドもオリジナリティってのも無いんかーい!」
そして、俺は駆け出した!




