賞金稼ぎ
ぴちゃっ……つぅーーっ……しゅっ!
「「「??」」」
「はい、出来た」
拾った竹に墨をつけ、地面に素早く絵を描いた。
小学生の図工の時間にやった割り箸ペンをイメージしてみたんだが……竹だから、こりゃ竹ペンだな。
初めてにしては、まぁまぁいい感じじゃねぇ? 自画自賛。
カコンッ! パンパンッ!
使い終えた竹をポイっと放り投げ、俺は手を叩き払う。
澄んだ音が響いても、黒人間Bはこちらに振り向きもしない……まだ、アプデ完了してないのか?
「ワンワン!」
「ジュララ……」
「……キャン」
俺に向けて同時に鳴き声が上がるが……あぁ、今回はちょっと何言ってるかわかんないっす。
ただ、三匹の反応を見るに、驚いてるのだけはわかる。
ふふん。俺、絵もそこそこ得意なんでね。
……で、たぶん……もう一回全員驚くと、俺はここに予言する。
「よぉく、見ててくださいね?」
俺は今描いたモノの上にそっと手を置き『それ』をぎゅっと掴み取った。
そう……掴んだのだ。
「「「⁉︎⁉︎⁉︎」」」
ふっふっふっ……驚いてる驚いてる。
動物が目を丸くすると、こんな顔になるのかぁ。
◇
俺は……自慢なんだけど、運動神経はそこそこいい。
しっかり俺流で鍛えたからな。
中学、高校共に帰宅部だったが、足は学年で……いや、学校で一番速かった。
体育祭でぶっちぎり、栄養のいい物を食べて育った陸上部共のプライドをバッキバキにへし折った男だ。
……そのせいで、部活の勧誘が鬱陶しかったが、毎日バイトに遅れないよう、しっかりと逃げ切っていた学生生活。
ある日、団地の清掃お爺さんに勧められて参加した小学生マラソン大会では、見事、一年生で優勝し、図書カードと鉛筆を貰った。
……あれは、嬉しかったな。
そうして俺は知った……『勝てば、賞品が貰えるんだ……婆ちゃんが喜んでくれる……家計の助けになるんだ……』と。
それを機に、俺は数々の賞レースに参戦していった。
中学生の時は特産品の野菜を頂き、高校生の時は優勝賞品の米30kgを毎年担いで帰った。
マラソンだけじゃない。
読書感想文を書いて入賞すれば、図書カード一万円分だろ?
絵画コンクールでの特賞は旅行券三万円分が貰え、それらを金券ショップで金に替えた。
俺は天才ではない、超努力型だ。
だが、努力して手に入るモノは片っ端から手に入れていった。
……残念だけど、そこにプライドやら愛着やらは存在しない、ただの粗雑な賞金稼ぎ。
自分の作った作品に、まるで愛情なんて持てず。
いつも、せっせとコツコツ傾向と対策を練って挑んだ。
『審査員さん、あんた学生のこういう作品がお好みなんだろ?』といった媚びに媚びた腹の内を、耳障りのいい四字熟語や絵の具で隠した、上辺ばかり着飾った作品達を次々と生んだのだ。
◇
「俺はちょっとだけ絵が得意でね」
お絵描きしりとりをやったら、次の人に100%感謝される自信はあるぞ?
だって、今、証明されている……俺の手の中。
この異世界プログラムにも容易く具現化できる絵を描いたんだから……。
ガリガリガリ……
ダルメシアンくんがぎこちない動きで、前足を使い何やら地面に書いている。
『ガカ?』
ガガ……じゃなくて、ガカ⁇ あぁ、画家ね。
「ははっ。違いますよ、俺はただの大学生です。絵で食っていけるのなんて、この世でほんの一握りの人間だけ……俺はそういう夢は見ないんでね」
ビクッ!
俺がそう言ったのと同時に、黒人間Bがいきなり『気をつけ!』の姿勢を取った!




