勿体無ぇ
よじよじと岩肌を下り、ようやく地面へと降り立った。
ざっ……すとん! びきっ‼︎
………………
「ぐおぉぉぉぉぅっ!」
痛ぇぇぇぇぇーーっ‼︎
振動が俺の肋骨にモロ響くぅぅぅっ‼︎
あぁ……痛み止め薬を持ってくるの忘れたぜ、ロキソニン!
追い討ちの怪我は労災下りるんでしょうか?
腹を抱え身体をくの字にしつつ顔を上げると、残る一影、黒人間Bの背中が見えた……あれ、背中側だよな? 腹側だったら若干、キモいぞ?
まぁ、あっち側向きなら俺のこと眼中になさそう……今、白虎さんの背中にいる彼に照準を絞っているんだな。
ざっ!
俺がもたつきながら地面に辿り着くまでの間で既にあちら側へ駆けつけていたパンダさんが、ファイティングポーズな臨戦態勢で白虎さんの一歩前に進み出る。
きゃーー! かっこいいッス、パンダさん!
決着は……一瞬で決まるのか⁉︎
………………
………………
……ん?
う、動かない?
安易に飛び出さないで距離を計っているのか、黒人間Bよ?
………………
え? 計っている⁇
俺に飛び掛かってきた奴等の動きから推測するに、あの黒影達に知能は無い。
異世界用エネルギー対象をこの世界に取り込む為に、単純真っ直ぐに突き進む、異世界プログラミングのNPC……ノンプレイヤーキャラクター。
ただ、パンダさん達が妨害してくるのはプログラムの想定外だったか?
黒人間B……もしや……データ更新中?
「ワン……」
その時、沈黙を破るように、静かな声でシマウマくんが墨溜まりからヨロヨロと立ち上がった。
その傍らにはダルメシアンくんがそっと寄り添う。
シマエナガさんはさっきの黒鳥のように、二匹の上を心配そうに旋回していた。
……彼等なりに、互いの連帯感があるんだな。
「ありがとう、助かったよ!」
「ワンッ」
俺は片手を上げ、シマウマくんに再度、礼を言った。
「そういや、二足歩行ってしないの?」
「キャムゥ……」
俺の問いに、ダルメシアンくんが前脚でシマウマくんの腰をトントンと軽く叩いて答える。
……あぁ、なるほど。二足は腰が疲れるのか?
まぁ、四足歩行仕様なボディだからな。
そして、再び視線を黒人間Bに戻す。
静止したままだが……今、下手に間合いを詰めたら、カウンターが飛んで来るかもしれない。
パンダさんが攻めあぐねている。
黒人間B vs 白黒の生物達 with 酔っ払いくんの構図。
秩序がまだ完全には形成されていない未完成なこの異世界……だから白黒なのか?
それとも、生前の創造主と何か関係があるのか?
……わからねぇな。
その時、ふっと視線の端に何かが動いた気がして、思わず身構える!
ばっ!
「キャンキャン?」
「あ、いや……あれは……」
ダルメシアンくんが『どうした?』って尋ねてきた……きっと。
曖昧に答えた俺の視線は、最初の黒虎の墨溜まりに釘付けとなっていた。
黒い液体が無数の白黒グレーな粒子となり、空間へとすぅっと消えていく……マサさんの異世界の時と同じ。
やはり、この『墨』はエネルギー。
……また、あの黒池に循環するのか? それとも消滅していくのか?
………………
「勿体無ぇな……」
どうにも無駄遣いが嫌いな性分なんでね。
えぇ、社長いわく、ドケチらしいっすから、俺。
不完全な世界ってことは……つまり……何でもアリってことだろ?
「……再利用しようぜ」
俺はそっと呟き、落ちていた竹の枝を掴んだ。




