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オススメ事故物件、今ならサービスで異世界ワープお付けします。  作者: 枝久
3ー3

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希望

 走り来る黒パンダを目視した瞬間、俺の脳裏に『死』が()ぎった。

途端、痛覚は一時的に伝達作業をストップする。


 「あぁっ、くそーーっ!」


 俺は大地に手を付き、不様(ぶざま)によろけながら立ち上がり、全速力で駆け出す!


 逃げろ! 逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!

少しでもこの場から遠くへ! もっと遠くへ‼︎


 いくら草食動物といえど、あの手を振り下ろされたら、人間の頭なんてぐしゃっと潰されちまう!


 ダダダダダダーーッ‼︎


 だが、岩の向こう側、俺の後方の間近まで迫りくる黒獣の足音!


 ダダダダダダダダダダッ!

 パカラッパカラッパカラッパカラッ‼︎


 背後で響く二種の足音を耳が拾う!


 ……えっ?


 俺が眉を顰めた次の瞬間、激しい衝突音が轟いた!


 ドーーンッ‼︎


「⁉︎⁉︎⁉︎」


 思わず振り返るが、俺の位置からでは岩が視界を遮り、何が起きたかわからない。

けど……何かと何かが……ぶつかった⁉︎


 パーーンッ! ズサササーーッ!


 ⁇⁇


 ぶつかったとおぼしき両者の片方……は、弾けた⁇

もう片方は……反動で倒れ込んだのか⁉︎


「っ!」


 ダッ!


 今、進んだ距離をそっくりそのまま折り返し……意を決して、岩陰からそっと顔だけを出した。


「⁉︎」


 俺の目にすぐ飛び込んできたのは……黒い墨溜まりに転がる……シマウマくん⁉︎


「お、おい! 大丈夫かっ⁉︎」


思わず飛び出て、墨にまみれた(しま)々な彼の側に駆け寄る!


 そうか……俺に向かって走って来た黒パンダに思い切り体当たりしたんだ!

シマウマくんの方が黒パンダよりも足が速い! 時速何十キロ⁉︎


「ワ、ワンッ……」


 たぶん『だ、大丈夫』……って返事してくれたんだろうけど……すぐには立てそうにない様子。

交通事故並みの衝撃だったろうに……どこか怪我していないか?


 ………………


「ごめん、ありがとう……すぐ戻る」

「……ワン」


 ぽんっ!


 シマウマくんの肩を叩き、俺は身を隠すのに使っていた岩に急ぎ登る。

あくまで敵の狙いは俺達……なら、彼をその場で休ませていても問題はないはず……すまん!

まずは、残る黒影達を片付けねば‼︎


 がっ! がっ! がっ!


 岩をなんとか登り切り、辺りをぐるりと見回す。

自分の置かれている現状を把握することで、心が少しずつ冷静さを取り戻していく。


 ………………


 だけど……ここ、ちょっと高ぇな。怖っ。

けして高所恐怖症なわけではないが、上ばかり見て登っていたから、自分が思ってたよりも高さがある。

三階くらいから見下ろす感じだ。


 バサバサバサッ! 

……びちゃっ……びちゃっ……


「ちっ! 来やがったな!」

「メェメェ!」

「キャンキャンッ!」


 さっき俺に一撃を喰らわせた黒鳥が再び、黒い雫を振り撒きながら、俺の周りを飛び回りだした。

『気をつけろ!』って下からパンダさんとダルメシアンくんが声を上げている……たぶん。


 黒鳥は大きく旋回を繰り返して、次の機会を伺っているみたい……が、そう何度も喰らってたまるかよ!


 相手を睨みつけたまま、俺は手だけをそっと背後に回し、目的の物を握る。

少しずつ、掴んだ『それ』を引っ張りながら身体の向きを変え、じりじりと敵とのタイミングを計る。


 ………………


 来る! 


 バサバサバサッ! 

 ぱっ! 


 黒鳥の襲来と同時に、俺は握っていた手をぱっと開いた。


 ぱちーーん! パーーンッ!


 飛びくる黒鳥に『それ』はクリティカルヒット!

目の前で鞭のようにしなった『竹』に叩かれ、小型の敵はただの黒い液体へと姿を変え、地面へ堕ちていった。


 ばちゃばちゃばちゃ……


「よっしゃーー! 残るは黒犬と黒人間B‼︎」


 パーーンッ!


 俺の言葉のすぐ後に、聞き慣れてきた破裂音が鳴る。


 岩にしがみつきながら、そぉっと真下を見下ろすと、パンダさんの後ろ足の黒い部分が腰の辺りくらいまで真っ黒になっていた……一応あの位置、腰であってる?


「パンダさん⁉︎」

「メェメェ!」


 またしても彼はガッツポーズ!

岩に登ろうとした敵を……引き摺り下ろして、踏みつけたのか⁉︎

あらやだ素敵よ、パンダさん‼︎


 これで、あと一体!

視線をぱっと遠くの白虎さん達の方に動かすと、彼女達の前には……黒人間Bの姿!

パンダさんが撃破したのは黒犬の方か。


 でも、どうして……よく知りもしない俺達の為に戦ってくれるんだ?


 ………………


 あぁ、そうか……俺達は……彼等の『希望』なんだ。

何もわからないこの白黒な異世界から抜け出す為に、必要な存在。


 ……だとしたら……なんとしてでも俺は……俺のすべきことをやり遂げなければいけない。


 ぐっ!


 拳を強く握り締めてから……そろりそろぉりと、登った岩を気をつけながら下りたのだった……。


 あぁ……なんかカッコ悪いな、俺。

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