黒影アニマル団
「さて……どうすっかな……」
内心の焦りを悟られないよう、自分の灰色の髪をぐいっと掻き上げる。
急がないとオール白髪にされちまう。
ちらりと、今度は白虎さんの背中に乗せられた夢の国の酔っ払いくんに目を遣る。
彼のスウェット上下は色が濃くなり、俺の髪の毛は黒色が吸い取られてる……一貫性がないな。
……それとも何か法則があるのか?
「ギャオウゥゥッ!」
「うおっ⁉︎」
ダダダッ‼︎
一瞬、俺の気が逸れた瞬間、咆哮と共に、黒虎がいきなりこちらに飛び掛かってきた!
さっ!
カコーンッ‼︎
慌てて避けると、敵は見事に俺が盾にした竹に激突し、澄んだ音を響かせた。
えっ? 鹿威し?
そんな日本庭園的な雅さは持ち合わせておりません!
しかも黒虎って……英語で言ったらブラックタイガーじゃん! 海老じゃん!
後ろに飛んでいけよーー! くそーーっ‼︎
なぁんて、くだらないこと考えてる時間はねぇ!
タイムオーバー or 黒影アニマル団の餌食で、俺達はこの身体を奪われちまうよ、超大ピンチ!
目の前では、頭をぶつけた黒虎が一瞬、動きを止めた。
ザッ! バッバッバッ!
それを見逃さず、今度は素早くパンダさんが黒虎の背後に飛び乗り、思い切りその首を絞め上げた‼︎
ギリギリギリギリギリギリ……パァァァンッ‼︎
さっ!
びちゃびちゃびちゃ……
間一髪、俺は反射的に岩に隠れた。
絞められた黒虎は水風船のような破裂音を上げ、その身体は大量の墨へと変わった。
その場に出来上がったのは、黒い墨溜まり。
「メェメェ!」
返り血ならぬ返り墨を食らったパンダさんが、俺に向かって力こぶを作り、ガッツポーズ! え? 虎殺し⁉︎
………………
そういえば白虎さんのことも引っ叩いてましたけど……パンダさんて、なんかの格闘技経験者ですか?
素敵な身のこなし……ふと、さっきの文字が思い起こされる。
『ヒキズリコム』……『引き摺り込む』ってことは……手が使えるってことだよな?
そうすると要注意なのは……黒パンダか、黒人間か?
まだ、こちらと距離を取る敵、数体から視線は外さずに、思考を巡らす。
いや……黒虎だって噛み付いてそのまま池ぽちゃダイブできただろうし、黒犬や黒馬にタックルされてもヤバいな。
黒鳥は……あ、うん、あれはたぶん大丈夫、弱っちそうだから、とりあえず放っておこう。
「ガウガゥガッ‼︎」
バシャーーンッ‼︎
白虎さんの声と共に、バケツをひっくり返したような水音!
見ると、彼女に噛みちぎられて弾けたのは……黒人間Aか⁉︎
酔っ払いくんと俺を守る為、皆、戦ってくれているのか⁉︎ ありがとう!
パタパタパタッ……びちゃ……
今度は俺の周りを黒鳥が忙しなく飛び回る。
「まだ黒パンダも黒人間Bも残ってるんだ、お前に構ってる場合じゃ……」
パタパタパタパタ……ひゅん、どごんっ‼︎
「かはぁっ……っ!」
………………
あまりの衝撃で数秒、息が止まった。
お、俺のみぞおちに黒鳥の突進タックル……高速バードストライク⁉︎
股間じゃなくてよかったけど……ぐぁぁぁぁっ‼︎
またしても俺の肋骨がぁぁぁぁっ‼︎
口からだらしなく泡を垂らし、腹を押さえ悶える俺は両膝から、がくんとその場に崩れ落ちた。
「メェメェーーッ!」
顔が地面に向いてる俺の耳に、パンダさんの叫びに似た鳴き声が届く。
そして、『何か』が全速力でこちらに突進してくる足音⁉︎
ダダダダダダダダーーッ‼︎
ぐいっと首を無理矢理に斜めへ捻り、霞む眼が捉えたのは……黒い巨体‼︎
え?
俺の人生は……ここで終わるのか?




