標的
バサバサッ……びちゃびちゃ……
羽ばたきと共に、二つの音が交錯する。
「何だ? ……鳥?」
俺達の上空で数周ぐるりと旋回した後、宙に浮き留まるホバリングを披露しているのは……黒い鳥⁉︎
カラス……ではないな、サイズがもっと数段小さめ。
そうそう、ここにいるシマエナガさんと同じくらいか?
バサバサバサッ……
羽ばたく度に、小さな羽根が周囲に舞い散る。
ふわりと揺れながら、落下途中で黒い雫へと変化し、それは雨垂れのように地面へと落ちていった。
びちゃ……びちゃ……
真っ暗な飛沫が地面を斑らにペインティングしていく。
俺自身が染められないよう、ささっと避けながら、視線は黒鳥から外さず、パンダさんに尋ねる。
「あれ、敵か⁇ 味方じゃなさそうだな……一体なんなんだ⁇」
「メェ!」
ガリガリガリッ……
殴り書きのようなパンダさんの文字を目の端で捉える。
『イケ オチタラ オワリ』
……………
イケ? ……池か!
俺が最初に見た墨汁のような池のことか?
バッ!
すると、パンダさんが竹で、ゴツゴツした大岩の方を指し示す。
よく目を凝らすと、大岩の向こう側に黒い穴のようなものがちらっと見える……あれが……池?
最初んとこだけじゃなく、こっちのエリアにもあるのか? もしかして他のエリアも?
「メェメェメェ‼︎」
「な、今度は何だよ?」
ブンブンブンッ!
やや焦ったように鳴き声を上げ、パンダさんは片手で俺の上着を引っ張りながら、反対手で再度、竹を振る。
『あれを見ろ!』……ってこと?
前脚の形状上、何かを握れるのは五匹のうち、彼くらいだな。
視界に黒鳥を収めながら、促された方を見遣る。
………………
「は?」
ざっ……びちゃ……ざっ……びちゃ……
「っ⁉︎」
驚きの余り、出かけた声が喉の奥にぴやっと引っ込んだ!
大岩の陰で蠢くそれは……この池から産まれたのか?
地面を踏み締め、行進するかのように順番に陸へと上がってくる。
ずるっ……びちゃ……ずるっ……びちゃ……
黒熊? 黒豹? 黒犬? 黒馬?
のそのそと黒い動物達が次々と姿を現した。
その後に続いて……ずるりと池の中から這い出してきたのは……真っ黒人間⁉︎
……………
ひいっ、気持ち悪っ‼︎ 何だよ、あれーーっ⁉︎
表面がヌルッとした感じのくせに、井戸出身某ホラー女性みたいな動き⁉︎
人間の偽物感が満載だよっ!
ここは絶叫系異世界ですかーーっ⁉︎
動物5匹にヒト(?)2匹⁇ 合わせて7匹⁇⁇
……って、あれ?
黒くジメジメした感じの動物達と、俺の後ろにいる皆を交互に見比べる。
………………
「ははっ……ファンタジーあるある、敵は己の『影』ってか? ……そんな使い擦られた展開じゃ、話題性は攫えませんよ」
ピクッ!
俺が嫌味を呟いた直後、一瞬、黒い動物達が静止した……かのように見えた。
が、すぐに動き出す。
⁇⁇
「ガウガウッ!」
「え? な、何?」
白虎さんが酔っ払いくんを背負いながら、何かを俺に一生懸命伝えようとしてくれている……が、ごめん、分からん!
ガリガリガリッ……
『アレ イケニ ヒキズリコム マエニ ヤラレタ』
パンダさんがシマウマくんに向けてピッと竹を振る。
指された彼は伏し目がちに、長い首を下げて項垂れている。
シマウマくんが……直近の行方不明者か!
あ!
白虎さんが口に入れたお気に入り一号?
で、二号は酔っ払いくんで……俺はお気に召されなかったのですね。
……顔面偏差値は平均値だと思うんですが、何か?
シマウマくんは池に引き摺り込まれて、無理矢理この異世界の住人にされた。
そして今、黒い影達の標的は……俺と酔っ払いくん……ってことだよな、これ?




