タイムリミット
俺は眉間に皺を寄せ、じぃぃっと高く聳える岩山を見つめる。
まさしく絵に描いたような仙人岩……ここからの距離感がイマイチ分からない。
遠いんだけど、近そうな……近そうに見えて実は遠いような……錯視アートを眺めている気分だ。
と、とりあえず……俺の目的は創造主との交渉と、ここからの脱出……皆様の解放は……俺じゃ役不足、セバメさんに託すしかない。
慌てず、騒がず、あの山頂を目指すか……はぁ……溜息しか出てこねぇ。
ポンポンッ!
俺の肩をパンダさんがそっと叩き、心配そうに首を傾げた。
「メェメェ……」
「だ、大丈夫ですよ。ちょこっと、だいぶビビっただけで……あ、そうだ!」
俺はあべこべなことを言いながら、岩山から視線を逸らし、皆の方を向き直る。
「ジェンダーレスなこのご時世ですが……はい、素朴な質問。この中で男性、手を上げてください!」
ぱっ!
パンダさん、ダルメシアンさん、シマウマさんから三つの手……っていうか前脚が上がる。
「なるほど! で、女性が……?」
ぱっ!
残るお二方、白虎さんとシマエナガさん。
こちらも前脚と翼を上げてくれた。
実は初見で男性だと分かったのは、犬のダルメシアンさんだけ。
俺は動物博士じゃないから、オスメスの区別ってまるで分かんない。
……あれ?
いつの間にか白虎さんが、地面に転がっていた酔っ払いくんをさりげなく自分の前に置いていた。
その位置は……餌ポジションじゃない?
まぁ、お気に入りみたいだし、こちらを害するつもりはないようだから、スルーしよう。
呆れながら、視線を外そうとして……ふと、また彼に戻して、二度見。
………………
なんだろ?
なんか違和感が……。
これは……そうだ、間違い探し⁉︎
じぃぃっと凝視し、自分の記憶と照らし合わせる。
………………
「あっ!」
暫しのシンキングタイムで気づいた!
彼のライトグレーのスウェット上下が……いつの間にか、チャコールグレーに変色してる⁉︎
えっ⁉︎ 何で⁇
「なっ……か、彼の服の色が変わってる⁉︎」
「……メェメェ」
ガリガリガリ……
『カミノ イロ カワッテキテル ジカン ナイ』
パンダさんは、ビシッと俺の顔に持っていた竹を指し向けた!
………………
「……はぁ? かみ? 俺?」
ガバッ!
慌ててリュックからガサゴソと手鏡を取り出し、自分の頭をチェックする!
ま、ま、まさか⁉︎
……………
「お、俺の髪の毛……な、なんか……灰色になってない?」
鏡の中に見慣れた平凡な顔と、初めましてな髪の毛が共演する。
いつもの艶のない真っ黒ボサバサな俺の髪の毛が……オシャレブリーチしたような銀髪に⁉︎
うわーーっ!
なんか……気持ち悪っ! ハイパー不自然‼︎
しかも……なんかノキさんの髪色に似てない?
めっちゃウキウキな彼から『お揃いだね、ハルくん!』とか言って、動画出演オファー届いちゃいそう。
嫌だよ、超面倒くせぇ‼︎
思わずコンパクトをパチンと閉じた。
「メェメェ」
「ガウ」
「キャンキャンッ」
「ジュルル」
「ワンワンッ」
………………
「んん?」
皆が一斉に『大丈夫?』って心配してくれたみたいだが……え?
自分の身体の変化に対する動揺以上に……シマウマさんの鳴き声に驚いた。
『ワンワンッ』って……犬みたいじゃねぇ⁉︎
シマエナガさんもなんか特徴的……へぇ、知らなかったな。
動物園なんて小学校の遠足以来、行ったことがなかったし、そこまで興味も湧かなかったからな。
近所でうろつく野良猫や木に止まる雀か散歩中の飼い犬くらいが俺の身近な動物ワールドだ。
……って、感心してる場合じゃねぇーーっ!
現実逃避から駆け足で舞い戻る。
この異世界の時間の流れは無茶苦茶だ。
そして、おそらくタイムリミットがある……ぼやぼやしていたら、あっという間に俺達もモノクロ動物王国の仲間入り⁉︎
バササッ……
その時、どこからか羽音が聞こえてきた。




