五名様
あらためて動物達を見回す。
パンダ、白虎、シマエナガ、ダルメシアン、シマウマ……これだけで五匹……この異世界の住人、五名様か?
さぁーーっと俺の全身から音を立てて血の気が引いていく。
ありとあらゆる血管は縮まり、心臓に強烈な負荷がどくんとかかった。
思わず、服の胸元をぐっと握り締める。
こ、この異世界の創造主は……どいつだ?
状況からして、仕切っているこのパンダさんか⁇
創造主以外の人達は戸籍上、亡くなってはいない。
役所に死亡届が出されていない、あくまでただの行方不明者。
だけど、現実の肉体を既に失った、もう戻れない転生者。
102号室は事故物件扱いされていない、ほぼ真っ黒のグレーな物件だ。
悪質管理会社が、家賃未納や契約違反による解除を理由に本人不在で部屋を片付けては、前の借主の失踪を伏せたまま、次の借主を招き入れたんだろう。
そして、負の連鎖が次々と犠牲者を生んだ。
「……クソ不動産屋め」
俺は小さく吐き捨てた。
しかし……やっちまったなぁ。
社長のふてぶてしい顔が頭にちらつく。
『聞き忘れたことはないか?』って……つい数分前に会話したばっかじゃんかよ!
はぁ……後悔しても、もう遅い。
行方不明者数の確認は、完全に失念していた。
しかもこの異世界は、もう既に複数名の魂のエネルギーを抱えちまっている。
予想よりも蓄えのある、まだまだ不安定なDIY世界。
気を引き締めていかなきゃ俺も皆の仲間入りになっちまう。
……もし俺だったら、何の動物?
こっちの希望はどのくらい叶えてくれるのかな?
可愛い系よりもカッコいい系の方が……
………………
いやいやいや、やっぱ動物にはなりたくないよ!
一瞬、想像しちゃったじゃん‼︎
ガリッ……トントンッ!
「ん?」
「メェメェ……」
パンダさんが地面に竹を突いて、俺に『見ろ』と言わんばかりにアピールする。
促されるまま、視線を落とした。
『ココカラ ニゲロ』
「‼︎」
ばっ!
俺は思わず、顔を上げてパンダさんの顔を見つめる。
「こ、ここに……貴方達のような方は何人いらっしゃるんですか?」
「メェ……」
カリカリ……
『5』
この場にいるので全員か……同じ境遇、共に助け合っているんだろうか。
……あれ?
でもさっき、白虎は酔っ払いくんを食べようとしていたはず……まだ、油断ならない。
俺がちらりと白虎に視線を動かしたのを見て、察したパンダさんが追記する。
ガリガリ……
『アイツ オキニイリ クチニ イレル』
「……え? 彼のこと、気に入ってんの?」
「ガウ……」
俺の言葉に白虎さんが答えた。
恥ずかしいのか、片手で顔を隠し、反対の手は爪でコロコロと酒瓶を転がし、何やら誤魔化すような仕草。
……男子大学生を別な意味で食べちゃいたかったのか?
積極的だな白虎さん、あんた超肉食系女子? いや男子⁇
どっちかなんて見分けつかねぇ。
……ん?
もしかして……あの酒……一緒に皆で飲んでいたのか⁉︎
ちらっと、いまだに眠り続ける青年に視線を送る。
もしや飲み会で意気投合(?)した白虎さんと寝落ちしたのか?
……異世界来て、何で宴会やってんだよ⁉︎
「はぁ……あ、あの質問です。貴方がこの異世界の創造主ですか?」
「……」
パンダさんは俺の問いに、フルフルと首を横に振った。
他の皆を見回しても、同様の反応を示した。
ここにはいない、か。
「俺達はここから帰るために、創造主さんと交渉しなければならないんです……どこにいるかご存知ですか?」
「メェメェ」
パンダさんは持っていた竹をすっと動かし、遠くの岩山の上を指し示した。
………………
えぇーーっ⁉︎
物凄い急勾配の尖った岩山⁉︎
なんか仙人が住んでそうなんですけどーー⁉︎
どうやって登れっていうの⁇⁇
心の中の絶叫が口から溢れ出しそうなのを、ぐっと奥歯を噛み締めてなんとか耐えたのだった。




