白虎の撃退法
白虎の瞳が大きく開かれると同時に髭がぶわっと放射状に広がり、一瞬重心を後方へと下げる動作。
……飛びかかる直前のモーションか⁉︎
はっ、やばい! こっちに来る‼︎
がばっ!
「ニャンコちゅぁぁぁぁぁぁん!」
「……は?」
先に動いたのは白虎ではなく、酔いどれな『彼』だった。
俺は慌てて叫ぶ!
「や、やめろっ! そのモフモフは危険だ‼︎」
そして、目を覚ませ!
それはニャンコちゃんじゃない! 白虎ちゃんだ‼︎
じろっ!
大きな眼球が斜め下に動き、己の身体にしがみつくスウェット青年にロックオン。
「グルルルゥゥッ……ガァッ!」
ガブッ!
………………
それは、一瞬だった。
俺の目の前で……人間の頭が、丸ごと獣の口の中へと……消えた。
そして両前脚を青年の肩に手を置いた状態で、二足立ちのまま立ち続ける白い獣。
………………
「う……うわぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
し……死んだ……のか?
『彼』を連れ帰りに来たのに……お、俺は……助けられなかった……。
全身がカタカタと小刻みに震える。
お、落ち着け……生き残る方法を考えなけりゃ、次の瞬間、俺も終わりだ。
じりじりと後方へ足を下げながら、けして目を合わせず、けれど敵の動向からは視線を外さない。
岩の上は駄目だな……竹林の中に紛れてもすぐに追い付かれる。
あの大きな爪で引っ掻かれたら致命傷、首を食いちぎられりゃ即死……虎の弱点って……遭遇した場合の対処法って何だっけ? えーと、えーと……
じゃり……
その時、白虎の後ろ脚が小石を踏み締め、音が鳴る。
く、来るっ‼︎
たたたたっ、スパァァァァァンッ!
「⁉︎」
素早く移動してきた『それ』は、目にも止まらぬ速さで白虎の頭を思いっきり引っ叩いた!
かぱっ!
その反動で、大きな口は開かれ、中から青年の身体が、首と胴体が離れることなく出現した。
………………
「はぁ?」
またしても、目の前の光景に理解が置いてけぼりを食らっている。
先程、ゴロゴロと猛スピードで竹林の中を転がってきたのは丸い玉ではなく……
のそっ……
見上げる高さ、俺よりデカい体躯……動物園の人気者、パンダが二足で立ち上がっていた。
しかも、その腕の中で今、白虎の口から救出された酔っ払いくんがお姫様抱っこをされている……ってまた寝てるよ、おい!
この状況で寝てられるなんて大物だな!
「⁇⁇」
っつうか、パンダ……コイツは……味方なのか?
はっ!
さっきの白虎は⁉︎
ばっ!
振り返ると……叱られてしょんぼりした猫のように、白虎が肩を落として座っていた。
……攻撃してくる素振りは……ない?
パタタタッ……
今度は、空からパタパタと飛んできた生物が、パンダの頭にちょこんと止まった。
愛らしい見た目な小鳥、シマエナガ。
よく見ると、竹の陰からは斑模様な犬のダルメシアンが顔を覗かせ、岩の側にはシマウマが佇んでいる。
……皆、白黒の身体をお持ちな動物さん達だなぁ。
………………
状況として……交渉するなら、相手はコイツだよな?
俺はパンダに向かって頭を下げ、声を掛けた。
「あ、ありがとう……ございます」
「メエメエ……」
「⁉︎」
………………
は? え? 今のって……鳴き声⁉︎
……パンダって……ヤギみたいに鳴くの⁇
「……」
腕に抱えてた眠る青年をそっと地面に下ろしてから、パンダは腕を組み、しばし何かを考えるように俯く。
すると、落ちていた細竹の枝を掴み、何やらガリガリと地面に書き始めた。
さっきメェメェ鳴いてたってことは……言葉は喋れないのか?
だけど……このパンダの行動は……間違いなく……元・人間……ですよね?
俺は集まった白黒アニマル達を呆然と見つめる。
予想外だ。
この部屋は……一体、何人の命を飲み込んでいるんだ?




