102号室の異世界
ピカーーッ‼︎
閃光が俺を包み込む!
……サングラス持って来ればよかった……俺、一個も持っていないけど。
あぁ、社長に物品請求しときゃ良かったな。
シュウゥゥゥッ……
光の収束とは反比例に、俺はゆっくりと目を開けた。
………………
「な……なんだ……ここは?」
上下左右を見回してから、再度、自分の足元に視線を落とす。
黒い靴下で降り立っていた場所は、つるつるとした岩の上……すぐ真横は黒い水を湛えた池だ。
まるで墨汁みたい……。
………………
ひいぃぃぃぃっ!
お、落ちなくて良かったぁ……。
底無し池だったらと思うとゾッとする。
一応は人並みに泳げるけど、異世界水泳はお断りします。
マサさんの異世界でも、水中に潜るのは避けた。
一滴でも口から体内に取り込んでしまったら困るからだ。
手に持っていたスニーカーをそっと置き、足をぐいっと中に突っ込んだ。
そういえば今通ってきた鏡は……どこだ?
………………
あれ? え? え? え?
首がもげそうな勢いで頭をぶん回し、周囲をくまなく探し……あっ! 見つけた!
キラッと輝く鏡が、さりげなく松の木に吊るされていた。
………………
「……はぁ?」
目を凝らさないと見えないほど、極小な鏡だとーーっ⁉︎
えーーーーっ⁉︎
あれの鏡面に、合わせ鏡しないと帰れないの⁇
的が小さ過ぎるし、手が届かない高さだし、くるくる回転して、向かい合わせ難易度ハイレベルすぎない⁉︎
こ、この異世界の創造主は……意地悪か⁉︎
元の部屋に帰るには……『交渉』して、接続したコンパクトミラーからの方が確実そうだな。
「はぁ……めちゃめちゃ不安だ……」
大きな独り言を吐き出してから、もう一度、辺りをぐるりと見回した。
まるで水墨画の中に紛れ込んだような錯覚に陥る。
モノクローム……白と黒とその狭間の色で表現された竹やら山やら自然豊かな……なんだか物哀しい空間。
だけど、歪。
行ったことはないけど、ドラマ撮影所ってこんな感じなのかな?
作り込まれた各セットが、どん・どん・どん、と置かれているけど……その周囲は雑然とした雰囲気。
それぞれの場面を繋ぎ合わせる気もない、ランダムさ。
これがセバメさんと本契約を交わしたら、どれほど美しい異世界になるんだろうか?
……少しだけ見てみたい……そう思ってしまう心をそっと内側に押し留めた。
しかし……うーん……どうしたもんか?
今回は前情報が一切ない。
社長の言う通り、その部屋でお亡くなりになっていないグレーな物件だからか、車に乗っている時ネットでざっと調べても、詳しい情報は一つも見つけられなかった。
あの社長なら、樋田さんにも色々と電話口で尋ねているだろうが……俺に何も振ってこないということは、きっとそういうことなのだろう。
「まずは……同級生の『彼』と創造主……この二人を探し出すところからスタートか」
岩場を気をつけながら降りて、ゆっくりと歩き始める。
いくつもに区切られた空間、とりあえず俺はこの異世界の中で最も発展していそうな風景に向けて足を進めた。
すたすたすた……
そういえば、まだスマホのアラームは鳴らないな。
この異世界の時間スピードはどれほどだろう?
現実とは違っていることだけは確か……かな。
ズボンのポケットからスマホを取り出そうと、身体を少し捻った瞬間……
ごんっ!
俺の足先が何かにぶつかった。




