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オススメ事故物件、今ならサービスで異世界ワープお付けします。  作者: 枝久
3ー2

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忘れ物はないか?

「本当に……本当にありがとうございます!」


 少しだけ目を腫らした樋田さんが再度、深々と頭を下げた。

先程の涙と共に、憑き物が流れ落ちたかのよう……顔色ががらりと良くなっていた。


 ………………


 ん? ちょっと変わりすぎじゃない?

写真加工アプリ使用のビフォーアフターみたい……別人級⁉︎

10歳くらい若返っていません?

え? どちら様ですか⁇


 人の相貌を変えてしまうくらいに彼を怯えさせたものって、一体なんだったんだろう?


 ………………


 いやいや、興味は抱かない方が身の為だ。 

これは聞かないに限るな、うん。


 彼は何度もペコペコと頭を下げながら去って行った。

それを見届けてから、社長は受け取った大判封筒に手を突っ込む。


 じゃら……


 中から出てきたのは鈍く銀色に光る鍵の束……このアパートのマスターキーか。

俺が行くのは……どの部屋だろう。

そっとツギハギなアパートを見遣る。


「っつうか、社長のことだから、アパートもっと安く買い叩くかと思った……一円ポッキリとか言って……」

「はっ! そりゃ酷ぇ金額だが……ないない。悪質な買い上げは法律に引っかかるんでな。うちは真っ当な商売をしている」


 真っ当の対極に鎮座するお方が話を続ける。


「……嘘をつけば、そこにさらに嘘を塗り重ねないといけない。真実こそが最適解で、正直者が勝つんだよ。信頼を失ったらそこで終わり……『一生懸命頑張って信頼回復!』なんてのはただの幻想だ」


 確かにな。

嘘や誤魔化しでいくらその場を(しの)いでも、バレて追求されたら即終わりだ。

相手になんて言ったかも、いちいち覚えてなんていらんないだろうし……。

そんな労力使うくらいなら、ハナから素直に行った方が楽そうだ。


 あれ? 

……そういえば、社長も俺に嘘はついていない気が……ただ、致命的なほどに説明が足りていないだけか? 

それはそれで大問題だよ!


「さてと……俺は101号室に用がある。ハルは隣の102号室だ。訪問前に持ち物チェックしとけよ?」

「わ、分かってますって!」

 

 どくんっ! どきどきどき……


 自分の鼓動が早まるのを感じる。

あぁ、行きたくないけど……やるしかない。

俺は左肩にかけていた愛用の黒いボロリュックを地面に下ろし、中身を確認する。


「……一応確認ですけど、本当に契約書は要らないんですよね?」

「あぁ、セバメの再訪問時に正式な手続きになるから、それはアイツに任せとけ。じゃあ確認いくぞ?」

「はい!」

「鏡、コンパクト&ケーブル、食料、飲料、スマホ、靴……あと簡易トイレ……」

「はい! 事務所で言われた通り、全部持って来てますけど……その……簡易トイレって……」


 俺は手に防災用の簡易トイレ袋を持ちながら、微妙な顔で聞き返す。


「時間の流れの感覚は人それぞれ異なる。今から行く異世界が早いか、遅いか……それは不明だ。トイレが間に合わなければ大惨事だし、そこで漏らした排泄物ですら異世界発展のエネルギーになる」

「うへぇ……」


 うげっ、ちょっと想像しちまったよ。


 だが社長。

異世界で放尿しようものなら、良くて出禁、悪けりゃ即死だよ。

たぶん怒りでぶっ殺されるに一票だな。

自分が死んだ魂エネルギーで出来た異世界を汚され喜ぶ創造主なんて、ただの超絶ど変態だろう?


「じゃあハル。聞き忘れたことはないか?」

「……それは後で思い出して、ひたすら後悔するやつですよ」

「確かに違ぇねぇな。ま、死なない程度に頑張れよ」


 俺に向けて予想通りの死亡フラグを立てながら、社長は『102号室』とテープが貼られた鍵を回し、扉を開けた。

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