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オススメ事故物件、今ならサービスで異世界ワープお付けします。  作者: 枝久
3ー1

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グレーな物件

 ソラさんから頂いた菓子折りは焼き菓子セットだった。

社長とセバメさんの二人から勧められ、遠慮することなく頂く。


 可愛いらしい箱を開け、その中から一つ、個包装のフィナンシェを選び、一口頬張る。


 はむっ! 


「うんまっ! なにこれーーっ?」


 美味すぎて、思わず声が漏れてしまった。

バターの香りが口いっぱいにふわぁ〜っと広がる……はぁ、幸せ。

空っぽの胃が喜んでるぜ!


「はい、ハルさん。珈琲どうぞ」

「ありがとうございます!」


 かちゃり……


 テーブルに置かれたメイド事務員さんからのお気遣い、ありがたく頂戴致します。

焼き菓子と珈琲だなんて……なんて、贅沢なんでしょ? 

お貴族様のティータイムですか?


「空腹は最高のスパイスとは誰が言ったんだかな。まぁ、とりあえずハル。食い方がリスみたいになってるぞ?」

「ほっといてください!」


 社長に齧歯目(げっしもく)扱いされたのが不満で、俺は残りをばくりと口の中に放り込んだ。

やや大きめサイズだったから、引き続きもぐもぐしていたら、よりリス感が増してしまった……うぅ、残念。


「まぁいい、食いながら聞け。俺の所にちょっとばかし、知り合いの大家から相談があったんだよ。なんでも、仲介の不動産屋が夜逃げしたとかなんとか……」

「⁉︎」


 ごくん!


 四個目の菓子を飲み込んでから、社長の顔を見返す。


 不動産屋が夜逃げ? そんなことがあるのか?


「それが、そこそこあるんですよ。お金のトラブルが大半ですけどね。その会社に多額の借金があったりすると、大家さんに渡す分を持ち逃げしちゃったりするケースも……やられた方はたまったもんじゃないですよ」

「へぇ〜〜」

 

 逃げられたのを、追いかけ、徴収するなんてのは……時間的にも労力的にもかなり難しいだろう。

大概が泣き寝入りか……ビジネスにおいて、金と信頼関係ってのは本当に大切だな。


 ちらりと社長に視線を戻す。


「で、本題だ。今回、何が問題かっていうと……逃げた業者が、割とグレーな物件を多数取り扱っていたんだよ。そこで、うちに『どうにかしてくれ』って話が数件、舞い込んできた」

「……は? どういうこと? グレー?」


 意味が分からない。

何? ホワイトとブラックの中間ってこと?

でも、事故物件なら最初から、ブラック以外の何色でもないでしょ?


 社長がささっとタブレットを操作し、画面をくるりと俺に向ける。


「ほら、見てみろ。お前が気になってた物件。今回、夜逃げした不動産会社の管轄だ」


 物件情報サイトのページ。

あの千住曙町のマンションが掲載されている。

 

 社長の指が、すっと取り扱い店舗名を指差した。


 『グレートグレイスハウジング』


 おう! 

名前からして、なんかめっちゃグレーだね!

夜逃げしたんじゃ、情報の更新もされてないってわけか。


「え? グレーな物件って……もちろん、会社名が、って意味じゃないですよね?」

「当たり前だろ? ハルの脳味噌はミルクプリンでも詰まっているのか?」

「……」


  ミルクプリンは美味しく食べる物であって、頭に詰める物ではございません!


「もし仮に……その部屋でカップルによる刃傷事件が発生し、一人が刺されたとする。救急搬送され、亡くなったのは救急車の中だった。……だが、救急車の中にそいつの魂が留まっちまったら、困るだろ?」

「た、たしかに……」


 悲しいが、病院まで間に合わないことは日本全国、どこでも起こり得ることだ。

……ん? 何か、やけに具体的な例を上げるなぁ。


「身体を失った魂エネルギーは馴染みのある場所へと戻り……」

「鏡の裏に……異世界を創る、と?」


 俺の解答に、ニヤリと社長が笑う。


「借り主が亡くなった物件は本来なら説明責任が発生するはず……だが、悪徳業者はそんなのお構いなし。『その室内では死んでいない』ってなれば多少は誤魔化せる。異世界が構築されているのに事故物件扱いされない物件……だからグレーなんだよ。全く、いい加減な仕事しやがって……」


 社長がちっと舌打ちをした。


 ………………


 うん……説明足らないのは……駄目ですよね?


 おいおい、あんたが言うなよーーっ‼︎


 俺は心の中で思いっきりツッコミを入れたのだった。

あ、セバメさんには、バレバレ?

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